ドバイ万博日本館を手掛けた永山祐子が考える「建築の豊かさ」とは

建築家の永山祐子氏(左)とUrban Cabin Institute パートナー山田理絵(右)


永山:海外で活躍して帰ってきた方は、みなさん日本の値付けに驚きます。ただやはり、日本の建築は世界の様々なコンペで勝つことも多いので、世界の中でもきちんと認識されています。アート関係の方に建築は世界でちゃんとポジションを持っていていいね、といわれます。

それは、日本の建築の系譜がきちんとつくられてきたというのが大きいです。日本の建築は、戦後復興からずっと、重要人物がきちんとアーカイブを残しながら、歴史を積み上げてきています。アジアの建築家にも「日本は建築史がきちんとあっていいね」って言われました。

山田:建築家が自分でプロモートしなきゃいけないのは大変ですね。欧米では価値を数値で表さないと、足元を見られてしまうところもありますよね。



永山:これから活躍するクリエイターは私も含め、もう少し自分の価値を高めに示した方が、逆に認められるかもしれませんね。

山田:クライアントから、特別な家や別荘を依頼されることも多いですか?

永山:はい。時間をかけながらじっくり話し合い、その方のライフスタイルをよく見ながらつくっていきます。

建築って体験をつくり出すものなので、どこから朝日が昇って夕日が落ちてみたいなことも全部を考えながら、窓の位置などを決めていきます。そこにしかない体験をつくること、それが建築の豊かさだし、施主が求めるものもそこですよね。

山田:永山さんが考える豊かなトキ、コト、モノはどんなものでしょう?

永山:そこにしかないものに触れられるのが、そこに行く意味ですし、価値ですよね。目に見えている風景だけでなく、そよぐ風とか匂いとか湿度感とか、私にとってはやっぱり、体全体で感じるものが豊かさ。それを生み出せる建築をつくりたいと思っています。

山田:先程サステナブルとおっしゃいましたが、ここ(対談場所のBlack Cube)も、明日には捨てられてしまうという100年前の古民家を、石川から移築したんです。2014年に自然発生の火事で中だけが焼けて炭化したんですが、そのうち訪れる方々が「美しいですね」とおっしゃるようになって、ある種の新しい価値、美をもたらしてくれたんだと確信するようになりました。建築家からご覧になっていかがですか?

永山:びっくりしました! すごく綺麗に炭化してるな、と。形も綺麗に残っていますし、表面のテクスチャーが美しいなと思っていたので、残されているのはすごく素敵な試みだと思います。これも本当に唯一無二と言うか、古民家はたくさんあるけれども、焼けた状態の古民家を見ることはないですよね。

山田:おそらく世界に一つかな、と自負しています。

永山:そういう特別感があるなと思います。日本では、超高層の木造化という話がありますが、あれは「燃え代設計」と言って、この状態で保つように設計するんです。また、焼いて保存する技法もあって、私も瀬戸内海の豊島に横尾忠則さんの美術館をつくった時には、焼杉を外壁に使いました。
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文=山田理絵

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