今回のゲストは、慶應義塾大学先端生命科学研究所(IAB)の冨田勝所長。システム生物学の教授でもある冨田は42歳だった2001年、山形県・鶴岡市に文字どおりゼロからIABを創設。「Data Driven Biology(データ・ドリブン・バイオロジー)」を旗印に、大腸菌のゲノム解析や、メタボローム(代謝物の総体)など、コンピュータ・サイエンスとバイオロジー(生物学)をベースとした研究で世界をリードしてきた。それから20年余━━。
IABは、クモの糸繊維から服を作り出す新世代バイオ素材開発「Spiber(スパイバー)」、メタボローム解析企業「ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ(HMT)」、唾液を用いた疾患検査技術開発企業「Saliva Tech(サリバテック)」といったバイオテクノロジー企業のほか、「SHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE(ショウナイホテル スイデンテラス)」を企画・運営する街づくり企業「ヤマガタデザイン」などを輩出。
冨田は、IABのスタッフや学生と共に、日本を代表するスタートアップ・エコシステムを作り上げてきた。米カーネギーメロン大学でコンピュータ・サイエンスを研究してきた日本を代表する“スターサイエンティスト”の冨田は、いかにして自分自身も起業家になり、起業家を育成するようになったのか。後編では、IABを軸に鶴岡市にスタートアップ・エコシステムを築けた要因、そして日本の新世代を“救出する手段”としてのアドミッションズ・オフィス(AO)入試や、エコシステムの可能性について語った。
牧 兼充(以下、牧):私には、慶應義塾大学先端生命科学研究所(以下、IAB)の成功要因についての仮説があり、冨田さんのご意見を伺いたいと思います。仮に、ある研究所がある地域に進出するとしましょう。そこからスタートアップ・エコシステム(生態系)ができるとしたら、最初に選ぶ研究テーマが重要なのではないか、と思っています。つまり、その研究テーマが「研究法の開発」だと、その上に応用のアプリケーションがたくさん生まれるので、色々な人材や異業種が集まり、そこからさらにスタートアップが生まれやすい環境になるのではないか、と考えているのです。
その意味では、冨田さんが最初に曽我朋義さん(IAB教授、ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ共同創業者)を引っ張ってきて「メタボローム(代謝物の総体)解析技術」に力を入れたのも、エコシステムが生まれていく研究テーマの選択としての成功事例だと思いますし、そもそも「データ・ドリブン・バイオロジー」自体が研究手法の新しい開発例だと考えています。他の地域で同じことをやるにしても、そこには法則性があるのではないでしょうか。冨田さんの実感値として、その点はいかが思われますか?