ビジネス

2022.07.05

日本の「未来の宝」を救出する選択肢としてのエコシステム


:3つ目が「Crazy-Quilt(クレイジー・キルト)」の原則と言い、色々な布を合わせて1枚のキルト(表地に薄い綿をかませ、重ねた状態で縫う手芸)にすることの喩えです。顧客や競合他社の従業員などをパートナーとして捉えて一丸となることを意味します。冨田さんは学生や鶴岡市の職員と協業さなさっています。4つ目が、「Lemonade(レモネード)」の原則と言って、酸っぱくて使い物にならないレモンに工夫を凝らして甘いレモネードにすること。

つまり、価値がないものも価値をもつ製品に生まれ変わらせることですね。5つ目が「「Pilot-in-the-plane(飛行機の中のパイロット)」の原則で、これまでの4つの原則を使いつつ、不測の事態に備えて状況に応じて臨機応変な行動をすることです。冨田さんがふだんから話していることをまとめた感じがします(笑)。

この5つが優れた起業家の一般法則になっている点についてはなるほど、と思いました。スターサイエンティストを研究していると、スターサイエンティストが起業すると成功することが多い理由がよく分かります。必要なスキルセットがかなり似ているんですよね。今挙げた5つの原則のようなマインドセットがないとサイエンスで成功しないし、そしてスタートアップでも成功しません。冨田さんの周りにアントレプレナーがたくさん育つのも頷けます。

冨田:例えば、シリコンバレーの投資家や起業家だと、お金を増やすこと自体が目的になっている人が多いですね。お金を増やすことは必要ですが、それが最終目的だと、「お金が増えそうにない」と判断したら、すぐやめちゃうか、儲かる方法に変えるか、あるいは確実に黒字になる“普通”のことをやり始めます。

だけど、私たちIABでは“意識高い系”の大目標をみんな持っているんですよね。スパイバーの関山和秀くんは、創業以前から脱石油の素材を作るという大目標がありました。しかも、その大目標は「正論」なんです。その大目標の方向性が正しく、しかもそれに確実に向かっているという自覚があるから決断に迷いがないわけです。仮に失敗しても、それは「正しい挑戦をした結果、正しく失敗した」と自信を持って言えるからです(笑)。

彼の言葉を借りれば、「石油はいずれなくなる。ナイロンやポリエステルの服を着ているけれど、これはもう60年後から80年後になくなる。誰かがリスクを取って、これらを代替する脱石油の繊維を作らなくてはダメではないか。それは難しく、まだ誰にも実現できていない。しかし、もしかしたら自分の技術で実現できるかもしれない、というチャンスが来た。それなら、自分にはチャレンジする義務があると思う。誰にでもできることではないからこそ、そういう機会が来たら挑戦する義務がある」ということなのです。そういう熱い思いを本気で持っているんですよね、決して口先だけではなく。

一緒にお酒を飲んだりすると、こういう話をふつうにするわけですよ。そもそも、何のために起業するのか、そもそも何のために生きているのか、という青臭い話で盛り上がるのです。普通の人が居酒屋で話していたら、みんな引いちゃうような話じゃないですか(笑)。まさに、「ジンカタ(人生の語り場)」で、これもIABのカルチャーの一つだと思っています。
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インタビュー=牧 兼充 写真=能仁広之

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