アムステルダムの国際会議で示された、デザインという名の楽観論

WDCD2022 Photo by Enrique Meesters


WDCDイベントの後半に登壇したシリア出身の建築家マルワ・アルサブーニ(Marwa Al-Sabouni)は、戦争や紛争勃発に影響する建築的要素について研究し、戦前のシリアの建築環境が少なからず戦争と破壊に貢献したと論じた。

植民地的な考えに基づいた建築、ステレオタイプに基づく「イスラム風」建築、そして、市民のためではなく、政治家や権力者のムードに基づいたシリアの都市計画と建築業界の状況が、国を戦争に導く要素となったと分析。一方で、人々の価値観とモラルに基づいて設計された建築や都市は、コミュニティ形成の場となるなど、平和構築の要素になる可能性があるという。

デザインの限界と可能性


戦禍において、未来のシリアの都市設計について考え、建築がもたらす平和構築を提示しようとしたアルサブーニ。彼女の議論は力強いが、戦争の現実とデザインが描く未来の間には大きなギャップがあるのも事実だ。彼女自身、希望は持っているが、楽観的ではないという。

たとえば、汚職はデザインやアイデアを潰す。国家繁栄の価値、企業の価値、個人の価値は、それぞれGDP、売上・利益・株価、収入・資産といった資本主義の仕組みに紐づいた指標で評価されやすく、クリエイティビティがもたらすコミュニティや幸福といった価値は、数値評価が難しい。利益を最大化するためにデザインプロセスやアイディアが軽視されたり、無視されることもあるだろう。

しかし、デザイナーは具体的なソリューションだけではなく、見落とされがちな視点、価値観、信念を提示するという役割も果たす。また、デザインは多様な課題の解決に関与する様々なステークホルダーを集めることができる。

だからこそファンデルラーケンは今回「楽観論」をテーマに掲げたのだろう。WDCDのようなデザイン・プラットフォームが今後どのような役割を担っていくか期待したい。

連載:旅から読み解く「グローバルビジネスの矛盾と闘争」
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文=MAKI NAKATA

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