WDCDで示された地球規模の課題解決のためのもう1つのカギが、集団(コミュニティ)における価値観、信条、文化という視点だ。ランドスケープ・デザイナー/建築家のジュリア・ワトソン(Julia Watson)は、古くからコミュニティに伝わる自然との共存の知恵には、気候変動の課題解決につながるデザインやテクノロジーが存在していると主張する。
テクノロジーというと、最先端のものが評価されやすく、伝統的な知識や技術は「ローテク(low-tech)」として価値が低いものとみなされる。何百年もその土地に伝わるものでも、“現代”の課題の領域となると除外されがちだ。
そんななか彼女は、それぞれの土地に伝わる知恵や技術を「LO-TEK(Local Traditional Ecological Knowledge)」として体系化。気候変動課題への対応と都市開発を同時に進める上で、いまこそLO-TEKに着目すべきだと考えている。
WDCD2022 Photo by Enrique Meesters
LO-TEKが除外されてきた原因の一つは、産業化によって人々が自然の一部ではなくなってしまったことだろう。人間を地球環境の一部とする考え方は、環境問題への意識を高めるうえでは欠かせない。
オランダのデザイナー・バイオ研究者・起業家であるボブ・ヘンドリクス(Bob Hendrikx)は、菌糸体(きのこ)でできた土にかえる棺桶を開発。人間は死後「ごみ」になるのではなく、土にかえるべき、つまりコンポストになるべきだと考える彼は、WDCDのデザイン・コンペの優勝者のひとりでもある。
ヘンドリクスは、有名なデザイン・アカデミーの所在地であり、デザイン・ウィークの開催地でもあるオランダ・アイントホーフェン出身。幼い頃から「デザイン」というものに多く触れてきたという。一方で、両親に連れられて自然の中で休暇を過ごした経験も彼のキャリアに大きく影響したようだ。「きのこの棺桶」は人間が自然と一体化するためのデザイン・ソリューションであり、失われた価値観を改めて提示することでもある。