WDCDはコンペやリサーチといった多くのアクティビティを、オンライン上で行ってきた。しかし、デザイナーらが一同に会し、エネルギーを共有するリアルイベントはコミュニティにとって不可欠なものだ。
WDCD2022 Photo by Enrique Meesters
実際、もっとも聴衆を巻き込んでいたプレゼンテーションはエネルギーに溢れており、それはプレゼンというより、共感やエンパシーを生むコミュニケーションのようにも映った。プレゼンターが扱うイシュー、あるいは課題意識がパーソナルなものであればあるほど、その熱量は大きく、多くの人の共感を生む。なぜなら、世界規模の課題・社会課題は、同時に「個」の課題でもあるからだ。
「経験」が人を動かす
たとえば、ジェンダーやセクシャリティの問題。この議題は、パーソナルなイシューであると同時に、グローバルな主要アジェンダの一つでもある。
WDCDで登壇したナイジェリア出身のファッションデザイナー、アデバヨ・オケ・ラワル(Adebayo Oke-Lawal)は、自分自身が社会にフィットしなかった経験を、肯定的なものに転換。保守的でステレオタイプ的な男性らしさ・マスキュリティニーの概念に対し、新たな視点を提示する。
2010年にファッションブランド「オレンジ・カルチャー(Orange Culture)」を立ち上げた彼は、ジェンダー・ニュートラルなオレンジをテーマに掲げたことで、それまでのメンズ・ファッションの“普通”を壊した。創業当時は理解されず、批判を浴びたというが、ブランドは現在、英米にもクライアントを抱えるグローバルブランドへと成長している。
オケ・ラワルは壇上で、「ステレオタイプは、致命的なものだ」と強調。ファッションはステレオタイプを打破し、人々の価値観を変えるることができると伝えた。
また、ジャーナリストのゾエ・メンデルソン(Zoe Mendelson)と、イラストレーターのマリア・コネーホ(María Conejo)は、女性性器とセクシャリティに関しての正しい知識を提供するためのプラットフォーム「プッシーピディア(Pussypedia)」を立ち上げた背景についてプレゼンした。
メンデルソンは、知識不足により恥ずかしい思いをしたというパーソナルな経験をきっかけに奮起。「(女性が経験する)恥ずかしいという思いは、家父長制的な考えのもとになっている」と考え、知識は力なりというかのごとく、調査・研究をすすめている。