できるのは「意思決定の質を高める」ことだけ
もう1つの反省点として、ファイアフォンは値段が高かったことがあげられる。アマゾンの基本理念の1つは「倹約」であり、それまで世界に対し、コスト効率が高く、既存のビジネスモデルを打破する企業であることを示してきた。
顧客にとって、基本原則はあくまでも低価格だ。ところがこのときはiPhoneと同額の200ドルで販売し、さらにキャリア(通信会社)との2年契約が必須だった(200ドルはいまでは安く感じるかもしれないが、当時の携帯電話はキャリアの費用負担があり、価格がずっと安かった)。私たちは価格を99ドルに下げ、その後さらに無料にした。だが効果はなく、だれも欲しがらなかった。
最後に、ファイアフォンは市場への参入が遅く、しかも使えるキャリアがAT&Tの1社しかなかった。当時、iPhoneは4つのキャリアで利用でき、各キャリアが複数ブランドの機器を幅広く展開していた。
仮にファイアフォンを、機能はそのままで、プライムの会員権もつけてiPhoneより安く提供していたら結果は違っていただろうか?ひょっとしたら違ったかもしれない。
だがこの話のポイントは、正しいプロセスによって成功の確率は高まるにしても、決して保証されるわけではないということだ。
ファイアフォンの開発にはジェフ(ベゾス)も深く関わっていた。プロジェクトリーダーのイアン・フリードとキャメロン・ジェーンズと並び、実質的にPR/FAQの執筆者の1人だった。
ジェフもチームも顧客が喜ぶスマートフォンを開発していると信じていた(あるいは、そう考えて自分を納得させていた)が、間違っていた。どんなにすぐれたプロセスでも、できるのは意思決定の質を高めることだけだ。人間に代わって完璧な意思決定をすることはできない。
「ホームランを打つにはそうするしかありません」
ファイアフォンが失敗しても、ジェフが開発のプロセスを疑問視することはなかった。彼はこう書いている。
「ホームランを狙ってフルスイングすれば、何度も三振に終わるのは目に見えていますが、いずれホームランを打つにはそうするしかありません」
ホームランを打っても最大4点しか入らない野球とは違い、ビジネスで大きく当たれば無限に近い得点が入ることもある。大事なことは、何度も失敗し、冴えない成果しか生まない実験を何度も繰り返せる少数の企業だけが、大成功を収めることができるという事実だ。
ファイアフォン撤退後のあるインタビューで、この失敗について問われたジェフはこう答えている。「あれを大きな失敗だと言うなら、私たちはいま、もっと大きな失敗をめざしています。冗談を言ってるんじゃないですよ」
発明の規模、そしてそれに伴う失敗の規模は、組織の成長に合わせて大きくしていくべきだ。そうでなければ、企業を次の段階に発展させるに足るインパクトのある発明は実現しない。