「一方通行」と「往復可能」のドアを区別する
企業は大きくなるほど、「発明マシン」として動き続けるのが難しくなる。その妨げの1つとなるのが、状況と関係なく発動される画一的な意思決定パターンだ。
ふたたび2015年の株主への手紙を引用すると、ジェフはこう書いている。
「意思決定のなかには、必然的で、ほぼ後戻りできない、一方通行のドアのようなものがあります。このタイプの決定は、系統的かつ慎重に、熟考と議論を重ねて行わなければなりません。結果に納得できなくても、元の場所には引き返せません。これをタイプ1の決定と呼びましょう。しかし、大半の決定はそうではなく、往復可能なドアを通るタイプ2の意思決定です。うまくいかなかったら我慢する必要はなく、ふたたびドアを開けて後戻りしてやり直せばよいのです。判断力にすぐれた個人や規模の小さなグループなら、このタイプ2の決定を迅速に行うことができます。というより、そうすべきなのです」
有料会員サービスのアマゾン・プライムは往復可能なドアの決定だった。サブスクリプション、無料配送、迅速な配送という組み合わせが支持されなければ、うまくいくまで組み合わせをあれこれ試していただろう。
現にプライムは最初から成功したわけではない。それ以前にスーパーセイバー・シッピング(配送を急がないことで配送料を安くできるサービス)という、やり直し可能な決定があり、それが最終的にプライムへと姿を変えたのだ。
一方でファイアフォンは、一方通行の決定に近かった。アマゾンは市場から撤退を決めたとき、Uターンして「仕方ない、別のスマートフォンで試してみよう」と考えることはなかった。
大企業は、一方通行ドアの意思決定を想定したプロセスを構築しがちだ。誤った決定によって大惨事を招くことを恐れているからだ。そのプロセスは一般的に緩慢で煩雑、リスク回避に満ちている。往復可能であるべき意思決定についても、深く考えずに一方通行のプロセスを当てはめてしまう。
その結果、前進する速度が鈍り、アイデアを生む力が損なわれ、イノベーションが停滞し、開発サイクルが長期化する。
だからアマゾンは、スタートアップの精神を失わないよう、スピード、敏捷性、リスクを受け入れる姿勢を重視する。もちろん、最高の水準にこだわり続けながら。このような気質は、創業間もないころから「アマゾニアンであること」の一部となっている。
1999年にジェフはこう書いている。
「私たちはあらゆる試みにおいて、継続的な改善、実験、革新にコミットしています。私たちのDNAにはパイオニア精神が組み込まれています。成功を収めるためには、パイオニア精神が不可欠なのです」
『アマゾンの最強の働き方』2022年、ダイヤモンド社刊、コリン・ブライアー/ビル・カー著、紣川謙監修、須川綾子訳