ビジネス

2022.06.08

居酒屋からペットフード屋へ 事業転換を支えたもうひとつの挑戦

ゲイト代表取締役 五月女圭一

コロナ禍のあおりを受けて全店舗が閉店に。居酒屋チェーンのゲイトが大きく舵を切ることができた理由とは。


年に及ぶコロナ禍で、居酒屋業界は大打撃を受けた。この逆風のなか、大胆な業態転換を成功させようとしている会社がある。東京都・墨田区に本社を構えるゲイトだ。

同社がいま挑んでいるのは、ペットフードの製造販売ビジネス。「完全無添加」を売りにした商品で、2020年12月には販売を開始している。居酒屋を主業とする小さな会社が、なぜ業種も業態も大きく異なる分野に参入できたのか。その裏には、漁業という、ゲイトが取り組んできたもうひとつの挑戦があった。

東京・新橋のオフィス街を中心に、居酒屋チェーン「くろきん」「かざくら」など10店舗を運営する同社は、16年7月から漁業の取り組みを開始し、18年には操業開始。代表取締役社長の五月女圭一は、その経緯をこう振り返る。

「東日本大震災をきっかけに、急激な仕入れ価格の上昇や食材の質の低下に直面しました。そんななか、知人のつてで漁業の現場を視察する機会がありました。その際に、人口減少と高齢化が極端に進む漁村の実態や、獲った魚に値段が付かず、生産者が苦しんでいる姿を目の当たりにしたのです。そこで、居酒屋を出口とした持続可能な新たな事業モデルをつくろうと決意しました」

拠点とした漁村は、三重県尾鷲市須賀利町。高齢化と過疎に悩む人口200人余りの新天地で、同社の漁業への挑戦は始まった。それは決して半端な取り組みではなかった。須賀利と近隣の熊野市の計3カ所で、11人の若い従業員とともに漁と水産加工に取り組んだ。

「獲れたての魚をすぐに加工して東京に運び、居酒屋のメニューとして提供する流れをつくりました。市場価値のない小さな魚も無駄にせず、商品にできる仕組みです」

東京に運ばれた鮮魚は、主におまかせコースの「生産地ファーストコース」で提供。どんな魚が取れるかは自然次第のため、品目をあらかじめ限定しないコースにした。
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文=下矢一良

この記事は 「Forbes JAPAN No.092 2022年月4号(2022/2/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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