デジタルテクノロジーを武器に。制約を超える表現はどう生まれたか?

TOKYO2020パラリンピック開会式の演出「The Wind of Change」/ Getty Images

「開会式はオリンピック同様に無観客での実施になります。選手は無観客の国立競技場に入場することとなります。そして、パラアスリートはコロナに対してリスク面でセンシティブな部分があるので、入場者数も大きく減ることが予想されます」

2021年夏の東京五輪が終わってしばらく経ったある日。ぼくは、関係者にそう伝えられました。「大丈夫。全然問題ない。逆境の中でもできることを証明しよう」チームメンバーにそう伝えました。

コロナ禍、無観客、選手選考の遅れ、さらにはアゲインストな世論の流れ。オリパラの歴史を振り返ってもあまり例のない、制約と事情のなか、ぼくは東京2020パラリンピック開会式に、クリエティブプランナーとして挑んでいました。

今回は、コラム連載を始めるにあたって、編集部から提案のあった「東京2020パラリンピックの開会式」というテーマで書いてみたいと思います。

ぼくのクリエイターとしてのキャリアは、20代後半からという遅いスタートだったのですが、当時は映像やグラフィック制作をする仕事が主流でした。その頃から、いわゆる"あたらしいギミック"や"新しい撮影手法"が好きなタイプ。映像で言えば、タイムラプスやハイスピード撮影、コマ撮りなどをCMなどで試していました。

そうした新しい表現手法の追求は、15秒や30秒のCMの世界や紙の上では収まりがつかなくなり、気がつくと「メディアにとらわれない方が楽しい」と思うようになりました。そういうわけで、デジタルテクノロジーに行き着いたのです。

「デジタルテクノロジーとか難しくない?」とよく言われますが、コードがかけなくても基本原理を理解していれば、ペンや紙などと同じように使えるというのがぼくの持論です。

ぼくには5歳の息子がいます。いつも家中のあちこちに落書きがあったり、謎の作品が貼られていたりしますが、息子が鉛筆→クレヨン→絵の具と道具をつぎつぎとアップデートするのと同じ感覚です。

AdobeのIllustrator、Photoshopなどの延長にAI(機械学習)やRoboticsがあります。UnityやTouchDesignerといった表現系のツールなども、とにかく遊びながら試してきました。

これまでの仕事でいうと、世界初のタレントアンドロイド「マツコロイド」を開発したり、AI監視社会から逃れる衣服「Unlabeled」を開発したりしてきました。
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文=田中直基

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