デジタルテクノロジーを武器に。制約を超える表現はどう生まれたか?

TOKYO2020パラリンピック開会式の演出「The Wind of Change」/ Getty Images


デジタルテクノロジーやコンピューターを味方につけることには、強力な利点があると思っています。それは、次の3つです。

1. 制約や事情に打ち勝つことができる
2. 想像していなかった表現と出会うことができる
3. データという「壮大な物語」を味方にすることができる

話は冒頭に戻りまして、パラ開会式のケースを例にしながら、少し具体的にお伝えしていきたいと思います。

無観客で入場する選手たちをどう鼓舞するか


パラの開会式は、全体で約3時間くらいあるのですが、ぼくはそのなかでも1時間半と最も長い時間を占める「選手入場」の制作責任者をやることになりました。総数160以上の国と地域の選手団がプラカードを持って入場してくるあのパートです。

無観客と言われた時、正直最初は悩みました。観客がスタンドにいないのに選手が入場? 世界中に生放送されるのに映像的にもつのだろうかと。

過去の大会同様に、映像やデザインだけでは、もしかすると難しかったかもしれません。でも、ぼくはコンピューターやデジタルテクノロジーという味方がいます。その答えの一つが、「The Wind of Change(世界を変えるカラフルな風)」でした。



この風は、自然の風と同じように、二つとして同じ吹き方をしません。すべての国でそれぞれ違う風になるように設計しました。色も形もスピードも面積も変わるのです。これはCG(コンピューターグラフィックス)などによる手作業制作ではなく、流体シミュレーションと自動生成技術を利用しています。



国旗の色と構成面積から風の色を自動抽出した

やはりどうしても選手入場は、単調感があって飽きると感じる人も多い。それを変えたいと思っていました。

ただ、一つひとつCGでつくっていたら、コスト的にも、何かあったときの緊急対応的にも難しい。コンピューターを味方につけることで、いろいろな制約を超えることができると考えたのです。これが一つ目の利点です。

そして二つ目の利点につながるのですが、今回は、デジタルな仕組みの上に、あえて絵筆のようなクラフト感があふれるテクスチャをかけ算しました。機械と人のクリエイティビティをかけ合わせることで、「想像していなかった新しい表現」が生まれたのです。
次ページ > 「国歌」を風の動きと連動?

文=田中直基

ForbesBrandVoice

人気記事