謝罪には「コスト感」が絶対。〜だとしたら申し訳ない、がNGな理由

『CONFLICTED(コンフリクテッド)』(イアン・レズリー著、光文社刊)

ミスは状況を変えるチャンス

意見の対立には、多くの間違いがあってしかるべきだ。みながチェスのように一挙一動に気を配り、間違ったことを言わないよう細心の注意を払っていては、無味乾燥なやり取りになってしまう。

また、生産的とも言えないだろう。オースティンガの実験に参加した交渉人たちが指摘するように、ミスのない会話は無意味か、機械的か、あるいはその両方である。

だからといって、他人の感情を無視していたことに気づいたり、相手を見下していたことがわかったり、名前を間違えたりしたときに喜んでいいというわけではない。

だが、もし本書が不快な会話の助けになるとすれば、それは犯しうるミスをすべて排除できるようになるからではなく、そうしたミスを認識し、いかに対応すべきかを学べるからだ。

意見の対立がなぜ、どのようにして悪い方向に向かうのかがわかっていれば、対立から生じる心地よいとは言いがたいやり取りにも、脅威を感じなくなる。

『CONFLICTED(コンフリクテッド)』(イアン・レズリー著)

『CONFLICTED(コンフリクテッド)』(イアン・レズリー著)


第一に、失敗を犯すのが自分だけではないと気づく。ほかの人たちも同じようなミスをしているが、たいていの場合、それをミスと認識していないだけなのだ。

第二に、失敗は姿を変えたチャンスと思えるようになる。ミスを修正する──セロニアス・モンクの言葉を借りれば、外した音程を立て直す──ことで、相手との関係を強化し、会話をより豊かなものにできる。

ミスは混乱を巻き起こす。が、それはむしろ望ましいことである。ミスは小さな竜巻のように会話を吹き抜け、景色を一変させ、新鮮な視点を生み出してくれる。

また、きちんと謝る機会も与えてくれる。これは先述したように、単なる礼儀の問題ではない。謝罪には代償が必要だ。だが、それは何も、相手の話を大きく誤解するたびに、意見を五回まで無料で聞くクーポンを発行しようということではない。ミスを認める際は、感情的な負担を受け入れるべきだ。

謝罪の言葉は、「気を取り直して話を進めよう」という意味だけでは足りない。気分を害したり、不当な扱いを受けたと思ったりしている人にしてみれば、それだけで話を進めるのはむずかしいだろう。

ある立場から一段下がるときは、それがいかに苦しいことか相手に伝えてみるのもよい──というより、そうしたほうが効果的だ。

謝罪をする際、極力避けるべき言葉のひとつが、「〜だとしたら、申し訳ない」である。この「〜だとしたら」があるとミスを認めていないことになり、謝罪が表面的なものになってしまう。

自分がミスをしたかどうかわからない場合、確信が持てるまでは謝らないのが賢明だ。

謝罪せずに気がとがめるなら、それはそれで良いことである。

イアン・レズリー(Ian Leslie)◎ノンフィクション作家

イアン・レズリー(Ian Leslie)◎ノンフィクション作家


イアン・レズリー(Ian Leslie)◎ノンフィクション作家。著書に、好奇心の重要性を論じ日本でも話題となった『子どもは40000回質問する』、Born Liarsがある。BBCなどのテレビやラジオにもコメンテーターとして登場するほか、ガーディアン、フィナンシャル・タイムズにも寄稿している。ロンドン在住。

文=イアン・レズリー 訳=橋本篤史

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