謝罪には「コスト感」が絶対。〜だとしたら申し訳ない、がNGな理由

『CONFLICTED(コンフリクテッド)』(イアン・レズリー著、光文社刊)

どんな謝罪が効果的か? ──ウーバーの実験

2018年、ホーは、謝罪の理論を現実のデータに照らし合わせて検証するチャンスに恵まれた。彼のもとに、大量のデータを用いて実地試験することで有名なシカゴ大学のジョン・リスト教授から連絡があったのだ。リストはウーバーの首席エコノミストとして、謝罪の価値を数値化するための協力をホーに求めた。

ほかのサービス業と同様、ウーバーは時として利用客を怒らせてしまうことがある──車がいつまでも到着しないとか、ルートの選択を間違えたといった理由で。

リストは、不十分なサービスを受けた乗客でも、謝罪をすることで、今後もウーバーを利用してくれる可能性が高くなるのではと考えた。だが、ウーバーの経営陣を納得させるには、謝罪の価値を数値で示す必要があった。

質の悪いサービスが会社にとって高くつくことは、すでにリストらが証明済みだった。目的地への到着が10から15分遅れた客は、次回以降の利用率が5から10パーセント下がるとわかっていた。

ホーとリストは、謝罪することで客の利用が回復するかどうか調べようと考えた。彼らはベイジル・ハルパリンとイアン・ミューアというふたりの経済学者とともに、効果的な謝罪とは何か、また謝罪にはどれほどの価値があるのかをウーバー側に理解してもらうため、ある実験を考案した。

研究チームは、全米の主要都市で160万人の乗客から情報を収集し、リアルタイムの大規模なデータセットを作成した。これにより、不快な経験をした乗客を特定し、その人たちに1時間以内に謝罪のメールを送ることが可能になった。彼らは乗客を無作為に8つのグループに分け、対照群を除いたすべてのグループに、内容の異なるお詫びのメッセージを送付することにした(この時点では、不十分なサービスについて謝罪することはウーバーのポリシーではないため、対照群は実際の状況を表している)。

ある乗客には、これといった説明のない、最低限の謝罪メッセージを送った。別の乗客には、「当社の見込みが間違っていたと承知しております」という「地位に関わる謝罪」メッセージを送信。さらにほかの乗客には、「当社はお客様に安心してご利用いただける到着時間の予測を提供するため、さらなる努力を重ねてまいります」という「約束つきの謝罪」メッセージを送った。

その後、この四つのグループ((1)対照群 (2)最低限の謝罪 (3)地位に関わる謝罪 (4)約束つきの謝罪)をふたつずつに分け、それぞれ一方に対し、次回利用時に使える5ドルのクーポンを配付した。経済学者たちはそれから84日間、乗客のウーバーの使用状況、利用回数と金額を追跡調査した。

その結果、いくつかの事実が判明した。

 Photo by Katri Matikainen/EyeEm / Getty Images

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まず、謝罪は決して万能ではないとわかった。最低限の謝罪にはほとんど効果がなく、ただお詫びを述べただけでは、その後の利用回数や距離に影響はなかった。

次に、もっとも効果的な謝罪は、コストのかかるものだとわかった。謝罪と一緒にクーポンを提供した場合、乗客が不快な経験をする前とくらべ、ウーバーでの支出が増加したのだ。

さらに、謝りすぎは禁物ということもわかった。一部の利用客は複数回不快な経験をしたことから何度も謝罪を受けたが、こうした客はまったく謝罪されなかった客よりも会社を責める傾向が強かった。

過度な謝罪は逆効果というのは、ミリアム・オースティンガがインタビューをした人質交渉人の話とも符合する。「5分間に5回謝ったら、お互いにとって良い関係は築けないでしょう」と交渉人のひとりは言った。

謝罪は多くなればなるほど、その価値が低くなっていく。ある時点から安っぽく感じられ、しまいには侮辱されているように思われるのだ。
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文=イアン・レズリー 訳=橋本篤史

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