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2022.05.22

世界で活躍する「農家バーテンダー」は、なぜ「木の酒」に挑むのか

「ベンフィディック」の鹿山博康氏


山口氏は製材所の3代目。普段は都内の住宅関連の会社で働きつつ、週末は実家に戻り、製材所を手伝っている。実際に木を加工するところを見せてもらったが、角材を作るためには、円柱形である丸太の端を切り落とす。「外側は水分が多く、香りが良い。でも、反りやすいので木材としては使いづらい」のだという。


鹿山氏(手前)と山口氏(奥)

木の街として知られるときがわ町だが、安い外国産の木材に押され、製材所の数は激減。30年前は9軒あったものの、今は3軒が残るのみとなり、外から丸太を仕入れずに、ときがわ町内で丸太を伐採しているのは2軒だけだという。

山口氏は、昔からの地元の製材所だからこそ、山を守りたい思いが大きいという。人間の都合で全て伐採するわけでなく、逆に一切関与しないのでもなく、必要な木を切ることで、下草に光があたり根が張ることで、土砂災害を防ぐことができる。まずは3ヘクタールある自分が持っている山から、良い循環を作って行きたいという。

クラフトブームも追い風に


昔からあったそんな山の循環が、なぜ崩れてしまったのか。それは、外国産の木材に押され、国産の木材が価格競争を強いられ、山に利益が回らなくなってしまったことが原因だ。国産材の価格は、1960年代の10分の1に値下がりしたという。

切った木全体の約2割が端材や木屑となり、年に18トンほどの産業廃棄物となる。それをお金を支払って捨てるのではなく、「木の酒」を作ることで収入とすることができれば、山の手入れに、もっと力を注ぐことができると山口氏は考えている。

「国産材には国の補助金もあるが、その場合は、効率重視で一気に全部切ってしまうので、土砂災害などを引き起こす可能性がある」と山口氏は警鐘を鳴らす。昔は樹勢を整えるための枝打ちをする人も多くいたが、国産材価格の暴落もあって減少。山の手入れも、以前より高価になってしまったという。

山の変化は、自然にも大きな影響を与えている。「この辺りの川の水も、だいぶ少なくなってしまった」。木の酒を通じて、山や森林を取り巻く環境に興味を持ってくる人も増えるのでは、と期待している。



鹿山氏は地元の思いも背負いつつ、去年、エシカルスピリッツ社と共に会社を設立。千葉市に木の酒専用の蒸留所を作る予定だ。

「実際に、森林総合研究所で杉やヒノキ、ミズナラ、クロモジ、桜などの木材からできたお酒を試飲させてもらったが、素晴らしい味に感動した。今は大量生産、大量消費ではなく、クラフト的なものに世の中が価値観が移ってきた」と鹿山氏は感じている。

日本は国土の67%が森林と、世界でもトップクラスの森林率を誇る。廃棄されている端材や木屑が資源となるなら、そのインパクトは少なくない。サステナブルやSDGsの動きが活発化する中、この新しい木の酒の取り組みに、引き続き注目していきたい。

文・写真=仲山今日子

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