例えば7つのドメインについて、月に一度定期的に話し合いの機会をもつのもよいでしょう。各部署レベルでも、経営チームでも構いません。「なぜこれを生産しているのか」「テクノロジーを最適なかたちで使っているか」「これを世に出すことは美しいことか」「これを見たとき、幸せになるか」などを議論するのです。
サイエンス(科学)についても、必ずしも大学で研究されている科学である必要はありません。「意思決定やプロダクトデザインのプロセスはデータやファクトに基づいてされているか」「我々が新しい知識を得るプロセスは最適か」「それはまったく新しい知識か、それとも誰かがすでに長い期間をかけて研究しているものか」「新しいアイデアや提案、改善策が採用される最適な方法は何か」などを対話するのです。
中心の「パワー」を企業について考える場合、少し厄介です。優れたリーダーもいれば、面と向かっては言えないが、皆に嫌われるリーダーもいます。そこで「リーダーシップとは何か」という正直な問いかけをしてみるのもよいでしょう。私たちの組織の「力」とは何なのか。社員が会社に来るのは、クビになるのが怖いからでしょうか。それとも、そこで行っていることが重要だと思っているからか、もしくは生産に貢献したいからか。
そのような話し合いを定期的に行うことによって、皆が自然に、同じ文化をもつ集団のなかで「これは正しいことか」「正いテクノロジーを使っているか」「さらによくする方法は何か」と考えるようになります。自らの行動にオーナーシップをもった人たちと働くことができるのです。
ビルドゥンを備えた人材は大変貴重です。帰属意識や責任感を持ち、そしてより深いレベルで人とつながる能力を持った人たちだからです。また、目先の利益でなく、自分の考えに基づいた長期的な判断ができます。また、組織がビルドゥンを備えていたなら、能力に秀でたものが昇進し、新しい視点にオープンな職場環境になります。
これまで見てきたように、ビルドゥンは明確なかたちをもつものではありませんし、とらえどころがありません。しかし、個人の発達、成長と学習、文化を共有する団同士のインタラクションともいえる動的な概念なのです。
普段の考え方の習慣を見直すのは難しいかもしれませんが、まずは「ビルドゥン・ローズ」を利用して、定期的に組織を、チームを、家族を、自身をチェックしてみてはいかがでしょうか。それは、人間本来の問いかけであり、ウェル・ビーイングにもつながるはずです。
レネ・レイチェル・アンデルセン◎作家、未来学者。コペンハーゲン拠点のシンクタンク「ノルディック・ビルドゥン」代表。歴史、伝統、技術発展、複雑性、経済に関する18冊の著書を執筆し、デンマーク国内の2つの賞を受賞。著書に『THE NORDIC SECRET─A European Story of Beauty and Freedom』『BILDUNG─Keep Growing』(共に未邦訳)など。