「合理的にリスクを取る」北欧流人間形成「ビルドゥン」とは何か?

デンマーク在住の作家、未来学者のレネ・レイチェル・アンデルセン


これが、以後ノルウェー、スウェーデン、フィンランドにも広がっていった「フォルケホイスコーレ(Folk High School)」です。

以降、幾度かのリバイバルを経て、21世紀のはじめにフォルケホイスコーレは再度大きく注目され、いまに至っています。私はこれを1920〜30代の規範見直しのうねりを受けたビルドゥン2.0に次ぐ、ビルドゥン3.0と呼んでいます。ビルドゥンとは、普通の人々による「人間とは何か」という基本的な問いかけです。

自分たちの伝統をなくさずに、グローバルでオープンな世界に対応するためにはどうすればよいのか? 私たち自身と社会を再点検し、地方、国、地球の課題に直面するための新しいビルドゥンが必要なのです。

「ビルドゥン・ローズ」の7つの要素


現代社会の複雑性を考えると、すべての人に生き抜くために必要な教育、ビルドゥンの足場を与えることはとてつもなく難しいことのように思えます。そこで私は、10年かけて「ビルドゥン・ローズ」を考え出しました。

これは、私たちの内的世界と外的社会を結ぶための考え方で、社会の発展に対する分析ツールでもあります。いかに内部でバランスが取れているか、協力的か、相互に結びついているかを点検することができます。7つの要素は私が考えましたが、すべて、フォルケホイスコーレで教えられ、対話されてきたことです。

上の層のプロダクション(生産)とテクノロジー(技術)は「私たちはいま、どこにいるのか」。要するにいま、実行可能なことです。真ん中の層のエスセティクス(美学)、サイエンス(科学)は、「何が可能か」という探索です。下層には、「何をすべきか」という要素、エシックス(倫理)やナラティブ(物語)が来ます。すべての隣り合う要素は相互に深く関連しています。中心には、すべての要素のバランスを保つためのパワー(力)が来ます。

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社会においてそれは、政治が果たすべき役割だと思います。それぞれのドメインがより複雑に分化する現代では、これらの要素をまたいでができる能力も、大変重要になります。いま起こっている悲劇は、生産と技術に多く投資をしすぎて、政治が想像力を失っていることです。いつも経済のことしか見ていません。その議論に、科学者や芸術家が参加することはありません。

そして、倫理に関しては完全に議論する能力を失っています。その結果として、気候変動があり、生物多様性の喪失があります。

またこれは社会だけでなく、働き方や組にも応用できます。どのような会社で働くべきか考えるときに使ったり、生活や仕事のクオリティを点検する際に参考にしたり、リーダーシップのツールとしても使えます。
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インタビュー、構成=柴山由理子、岩坪文子 イラスト=オリアナ・フェンウィック

この記事は 「Forbes JAPAN No.094 2022年月6号(2022/4/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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