犯罪者の巣窟に? アメリカのモーテルで起きている異変と対策

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モーテルを住居にしている人たち


ところが近年、都市部のモーテルは犯罪者の巣窟化になる傾向にあり、安心して立ち寄れるどころか、事前に近隣の治安をチェックしないと利用できないという不便さが散見されるようになった。

例えば、筆者の住むラスベガスには、たくさんのホテルとモーテルがあるが、あるモーテルが連なる通りについて、過去5年間でラスベガス警察が3万回のパトロールを行った記録がある。

年間4000万人の観光客を迎えるラスベガスといえども、1つの通りに建つモーテル街に対して年平均6000回のパトロールとは、1日に約20回の出動になるから、その異常性は推して知るべしである。

これらは明らかに、観光客でなく、モーテルを住居代わりにしている人たちの起こす犯罪への対応と予防のパトロールということなのだ。

物価の高騰しているラスベガスとはいえ、モーテルに住むよりはアパートに住むほうが安く上がるはずなのだが、さまざまな理由でアパートが借りられない人たちがいて、モーテルに住まざるを得ない事情を抱えている。


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その代表例が、身分証明書を提示できない犯罪を犯した逃亡者や、麻薬取引等に絡んで数週間ごとに住居を転々としなければならない人たちだ(もちろん、暴力的な夫から逃げてきた善良な母子家庭の人や、出稼ぎに来ている不法移民が、身分を明かせないので気の毒にもアパートに住めないでいるケースもある)。

このパトカー出動による治安維持は、住民の税金によって支えてられているので、地元では、モーテルの経営者自身が法令をきちんと運用し、利用者の身分証明書の提出を徹底させたり、自ら警備員を雇うなどしたりするべきだとの声が上がっていて、この言い分は納得できる。

ラスベガスの地元のリビュージャーナル誌によれば、たった3つのモーテルに、コロナ禍前のレベルで年間1万件以上のパトロールがかかり、それを裏付けるように911番(日本における110番)通報が3000件もあったという。

これほどにモーテルが、警察を自分たちの警備会社がわりに使うとして、露骨に目を吊り上げる街もある。

オハイオ州の州都コロンバス市では、2015年に法改正をして、他のモーテルと比べ、1日あたりの911番通報が120%以上多い(つまり12割増し)モーテルについては営業停止処分にするとしている。

そして営業停止を喰らうと、裁判所を通じて自主警備の強化を約束させられ、照明器具の追加や監視カメラの増強、フェンスの設置、警備員の雇用等の新たな投資をしなければ営業再開ができなくなる。実際に2軒のモーテルが約2億5000万円の設備投資をしなければいけない羽目に陥ったという。
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文=長野慶太

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