竹内は、リクルートの営業として最年少で成績トップを獲得した実績を持つ。営業メンバーに、自身のノウハウを事細かに伝授し、ブルーオーシャンであった「記憶市場」を開拓し始めた。
とはいえ、公立校に関しては一筋縄ではいかなかった。公教育には、学力だけでなく社会性も身に付けさせる役割がある。私立校などに比べ、進学実績を上げようとする意識は低かった。そこで学校ごとではなく、そのうえに位置する自治体に営業をかけ、一気に普及させることを狙ったが、予算という障壁にぶち当たったという。
「先日、ある自治体での導入が決まる直前に契約が流れました。原因は台風です。その地域で土砂崩れが発生して、臨時の復旧予算が必要になり、モノグサにお金を回せなくなったと。いくら子どもたちのためのサービスと言っても、当然ながら優先されるのは命を守ることなわけです」
結局、自治体のへの営業は芳しくなく、学校ごとでの導入を強いられることになったが、実証実験では結果が現れ、またそれによる生徒の自己肯定感の向上や学習習慣形成といった、公教育に求められる課題を解決できる点が評価され、10校を超える公立校で利用に繋がった。
クチコミで導入を決める学校も出てきており、この4月から漢字と英単語の学習用途として本格利用を開始した、墨田区立錦糸中学校もその1つだ。
「実際に使っている他の学校の先生たちから『学力の真ん中より下の子がゲーム感覚で取り組み、テストで点数が取れてきている』という話を聞き、導入しました。実際に成績の向上も見られ、今後は5教科で使っていきたい」(和田浩二錦糸中学校校長)
公立校で使われ始めたことは、竹内が目指す世界の実現の第一歩だ。竹内が今後について語る。
「モノグサが大事にしているコンセプトは、当たり前の水準を上げること。極端な例ですが、江戸時代は、ひらがなが書けない子どもの割合はいまよりも高かったと思うのです。
しかし、この時代にそんな小学6年生がいたら、どんな教育を受けているんだと疑問を抱きますよね。それは、江戸時代のように食べるために家の手伝いをしなくてもよく、勉強に集中できる環境があるので、ひらがなが書けて当然だとみんなが思っているからです」
「今後は、モノグサの導入で教育格差を解消し、これを使わない手はないと思われるくらいまで、サービスの質を高めていきたいと考えています」
教育についての議論では、記憶をするより思考力を高めていくべきだという声が挙がる。しかし、そもそもの思考の「材料」となる知識が乏しければ、その力を鍛えていくことさえ難しい。
モノグサによって知識の格差が解消されれば、誰もが思考力を高めることに時間を使えるようになる。そんな世界の実現を期待したい。