森山未來が提案。アーティスト・イン・レジデンスの拠点が神戸に誕生

森山未來(右から2番目)とアーティスト・イン・レジデンスを始動させた仲間たち


「世界中から注目されている振付家シディ・ラルビ・シェルカウイさんが振付をする、英国とベルギーと日本の国際共同製作に参加したときでした。いきなりベルギーのアントワープに来いと呼ばれて、そこで2週間滞在しながらの作品づくりが始まったのです」

その数カ月後に今度は日本でその続きを行なって、最後は初演される英国で、舞台を仕上げたという。もちろん、このように旅をしながら創作活動をするのは、森山にとっても初めてのことだった。

ダンスパフォーマンスを創造していくにあたり、作品の鍵を握るコンセプトは最初からあっても、実際にどのように構築していくのかは決まっているわけではないらしい。そこで、いろいろ調べたり、想像力を働かせたりして、自分自身を見つめ直して、どうしたいのかを考えるのだという。森山が続ける。

「自分の知らない街に滞在しながら創造していると、知らない人たちと出会ったり、その街の文化を感じられたりという新鮮な刺激が得られます。さらに、自分が持っている考えや文化と、滞在先が持っていたそれらを比べることで、自分の潜在意識が鮮明になるのです。こうやって、作品づくりに不可欠なひらめきが生まれるのです」

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古い部屋の壁に漆喰を塗って新しい命を吹き込んだ(c)久保陽香

神戸は風が通り抜ける街


さらに、森山が経験した国際共同製作のように、時間を置いて別の場所で創作をすることで作品を寝かせられる効果がある。それにより作品がさらに熟成するだけでなく、新しい環境で見つめ直すことで、斬新な方向性が見出せることもあるという。地元の人たちにとっても新鮮な刺激が得られる。

「滞在先である地元の人たちからすると、普段は自分たちで住んでいる街のことを改めて見つめ直すことがほとんどないことが多いですよね。でも、よそからやってきた異邦人である芸術家が新しい目で街を観察するので、地元の人たちにとっては気付くことがなかった街の魅力の再発見につながるのです」

このように語る森山だが、神戸で最初に着目したのが「デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)」だった。ここは約100年前に、当時は日本の最も重要な輸出品であった生糸を西日本一円から集めて、神戸港から世界に向けて輸出するために、最後の検品と銘柄のラベル貼りをする拠点としてつくられた。その施設を2012年に神戸市がデザイン・アートの拠点に改修したのだ。森山は言う。
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文=多名部重則

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