米大学での経験は、政府系機関からの資金調達にも活かされた。
鈴木は帰国後、採択率が20〜30%の科学研究費、10%を切ることもあるJST(国立研究開発法人科学技術振興機構)やNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)などの研究費を確保してきた。
「以前は、日本の政府資金を活用する研究開発プロジェクトは、尖った研究をやり、論文を書けば研究費を出してもらうことができました。しかし最近は、研究開発がどれほど社会貢献できるのか、という視点で見られるようになりました。
米国では昔から、技術が社会にどう役立つか、経済的にどれほどの規模で貢献できるかを申請書に書かないと通らない。私はそういった訓練ができていたので、日本でも順調に資金調達ができているのかなと思います」
課題はAIエンジニアの獲得
研究や事業準備を順調に進めてきた鈴木がいま苦労しているのは、エンジニア採用だ。人材不足が叫ばれるエンジニア、とりわけAI分野は売り手市場で、“新卒で年収1000万円”も珍しくない。グローバルでニーズが高まるなか、「日本のスタートアップや大学は太刀打ちできない」と鈴木はいう。
「特にAI分野の優秀なエンジニアは外資系企業に行ってしまいます。外資は給与が高く、ハンティングの文化もあるので採用も強い。東工大の学生も、もともとは大企業思考が強かった大学ですが最近はそうした企業を選ぶ人が増えています。
大学の制度上、研究室が出せる給与にはリミットがあり、特に外資を相手にした採用競争には負けてしまいます。さらにコロナ禍においては、海外のエンジニアを獲得できても就労ビザが出せないという困難にも直面しました」
鈴木のチームには、長年研究開発をともにしてきた人材や、スキル、経験を教え込んできた優秀な学生もいるが、日本の大学発スタートアップが成功するためには「ヘッドハンティングなど、大学自身が人材を引っ張ってくることも必要」と指摘。加えて、「エンジニア集めは今後、打開策を考えなければいけない」と危機感を持っている。
課題はありながらも、鈴木の技術への期待は高い。開発した“スモールデータ”AIが活用されれば、骨肉腫や小腸がんなど 、希少ゆえにデータ数が足りず、これまでは難しかった200種類に上る希少がんの診断が可能になる。
その技術は2021年には、研究内容が文部科学大臣賞に選ばれ、「イノベーションデザイン・プラットフォーム(IdP)」のギャップファンドにも採択された。また、今年3月にIdPが開催した研究成果の報告会では、博報堂賞を受賞した。
鈴木研究室のモットーは、「Be the First and Only One」。希少がんをAIで見つけ出す、最初で唯一の存在になりうるか、注目したい。