そうすると、ある行為が正しかったどうかは、事前に決められたルールを読めばわかるわけではなく、当事者の判断を事後的に評価してはじめて判断できることになります。そして、そのような事後的な評価を経て、ルールもアップデートすることができます。このように、実践に基づいてルールをどんどんアップデートしていくことを、日本政府は「アジャイル・ガバナンス」と呼んでいます。
これを実践するには、誰でも簡単に、迅速かつ低コストの紛争解決サービスを受けることができ、それをルール作りに反映することができる環境が必要です。そのためにはODRの社会実装が不可欠であると考えられます。
今後、あらゆる分野でODRが必要とされると予想されます。中でも、自動運転車や自律飛行ドローンのように、様々な主体の運用するシステムが複雑に絡み合うシステムでは、その重要性が極めて高いと考えられます。事故の原因に様々な主体が関与している可能性が高く、特定の誰かを悪者にして責任を取らせる方法は有効ではないからです。ステークホルダー間で、将来の再発防止に向けた建設的で協調的な対話を行っていく必要がありますが、そのためには、地理的な障壁がなく、参加の心理的ハードルも低いODRを活用することが重要なポイントになるはずです」
コミュニケーションの形が大きく様変わりする現代。オンライン上でのトラブル解決は特別なものではなく、わたしたちが安心して生活していく上で、必要不可欠なものになりつつある。
社会がどう変化しても、「顧客満足度の向上」といったビジネスを継続する上で大切なことは変わらない。しかし、その実現への道は、ODR導入の可不可によっても大きく異なる。技術の発達と共に新たな課題も生まれるが、それらを解決するのも最先端の技術に違いない。