司法型は、裁判所の調停等をオンライン化するケースが中心です(少額紛争や離婚紛争等)。例えば、カナダのCivil Resolution Tribunalは、高い利用者満足度を背景に、年々扱う紛争領域を拡大しています。行政型の代表はEUのODRプラットフォームです。電子商取引関連のトラブルから消費者を保護することを目的としています。民間型は、リーガルテック関連への投資増も相まって、多種多様なビジネスモデルが展開されています。
プラットフォーム企業等が顧客満足度の向上を目的に導入するODRがあります。例えば、ODRのルーツと言われるのが、アメリカのeBayが開発したResolution Center(解決センター)です。年間6000万件とも言われるユーザー間のトラブル解決に役立てられていますが、これだけの件数を人の手で解決するのは不可能ですし、安全な取引環境の整備という意味でも、紛争解決プロセスの自動化は急務でした。
その後、eBayはODRでユーザーのロイヤリティを獲得することに成功しています。例えば、トラブル経験のないユーザーより、解決センターを利用したユーザーの方が、その後の購入額が上がるというデータがあります。他方で、解決までに2週間程かかると、自分に有利な結果でも満足度は下がります。これもスピードが重視された結果でしょう。eBayのODRはデザインと技術の力でユーザー抱える問題解決に取り組み、企業の価値向上につなげた例と言えます」
企業の顧客に向き合う姿勢を図る指標としてODRが考慮されるように
コストがかかる顧客のトラブル対応は、企業にとって悩みの種の1つだろう。他方で、顧客からすると、問題を解決してもらえないという体験は、深い失望となり、ネガティブな口コミ等へとつながりやすい。SNSが普及した現代において、顧客の満足度は、企業の評判、ひいては収益にも影響を及ぼす。ODRを含むカスタマー対応へのアップデートは、真摯に取り組むべき経営課題だという。
「ODR基本方針の他にも、様々な政策で、消費者を救済する仕組みとしてODRの必要性が指摘されています。今後、ODRが一般に認知されたとき、ODRのある企業とない企業、どちらが選ばれるのか。SDGsやESG投資など、Socialな取り組みを重視する傾向が強まる中、企業の顧客に向き合う姿勢を図る指標として、ODRが考慮される時期も近いかもしれません。」と、渡邊氏はODRの持つ可能性を示唆した。
従来の司法制度が対応できないメタバース空間で求められる「分散型紛争解決」
政府による推進以外にも、ODRの社会実装に向けた活動が始まっている。日本ODR協会の設立記念シンポジウムでは、eBayのODRを手がけたことでも世界的に知られる、Colin Rule氏がホログラムで基調講演を行なった。
(左)渡邊真由氏(右)Mediate.com CEO Colin Rule氏|サンフランシスコからホログラムで東京のステージに登壇したルール氏。実際に近くにいるように感じられるほどのクオリティで、今後のオンラインコミュニケーションの多様化を予感させるものだった。
その際に聞かれたのが「分散型紛争解決」(Decentralized Justice)という言葉だ。例えば、フランスのKleros[8]は、ブロックチェーン技術を活用したODRを提供するリーガルテック企業だが、同社のODRは、誰でも陪審員として紛争解決プロセスに参加でき、その報酬としてトークンを得ることができるというモデルだ。CEOのFederico Ast氏は、「国籍を問わず、匿名で参加できるのがメタバース空間。何か問題が生じても、従来の司法制度では対応できない。新たな解決の仕組みが必要だ。」という。