ビジネスの現場で起こるさまざまな小さなトラブルに頭を悩ませているビジネスパーソンは少なくありません。コロナ禍で対面する機会が極端に減ったことで、周囲と意思疎通が図れず、ストレスを溜めている方も多いはずです。そこで今回は、筆者がコンサルティングの現場で体得したビジネススキルの磨き方を紹介します。
ポイントは「日本語」「論理」「コミュニケーション」の3つだけ
経営コンサルタントとして顧客と話をしていると、支援先の経営層から「メンバーのビジネススキルを鍛えたいので力を貸してもらえないか」というご相談をよく受けます。コンサルタント同士が、テキパキと打ち合わせを済ませ、的を射た質問や資料を繰り出す姿をご覧になり「私もこんなスキルを身に付けたい」と、率直にお話しくださる方も少なくありません。
われわれコンサルタントは、多様な情報を整理しつつ問題の本質を捉えることに長けた、ビジネスの〝職人〟を自負しています。それを可能にしているのは、スピードと精度が問われるビジネスの現場で、思考力と分析力を磨く訓練を重ねているからです。
しかしコンサルタントと同じように、身を削るような環境に身を置かなければビジネススキルは高められないかといえばそうではありません。そこまで厳しく追い込まなくても、目に見えてビジネススキルを向上させる方法があります。それが「日本語」「論理」「コミュニケーション」の3つを鍛えることです。
今回はなぜこの3つを鍛えるべきなのか、その必要性と効能を解説します。
「日本語を鍛える」とは、どういうことか?
日本語を母語とするわれわれにとって日本語は身体に染みついたものです。「いまさら日本語を鍛えるといっても、一体何を鍛えるというのだ」と思われるかも知れません。しかし次の例文を見てください。書き手は何を一番に伝えたいと思いますか?
『オリンピックに合わせた企画を考えよう』
ビジネスシーンで耳にするやり取りです。企画とは何か? 考えるのは誰か? いつまでに考えるのか? 短い文章ですが、意味合いは多岐にわたりその解釈は聞き手に委ねられます。友人や家族との日常のやり取りであれば、さして気にならないでしょうし、気にする必要もありません。しかしビジネスの場においては非常に大きな問題をはらんでいます。なぜなら、解釈の余地が広すぎる文章や目的がハッキリしない文章は、受け取り手の行動を意図しない方向に導いたり、阻害したりする危険をはらんでいるからです。
ここでいう正しい日本語とは、主語や述語、形容詞と被形容詞の関係が明快で、具体性があり、誤解の余地が限りなく少ない日本語を指します。つまり読み手の主観や経験などに左右されず、誰が読んでも同じ意味として理解される明快な文章です。
たとえば「かなり」「非常に」などの形容詞は、相手に量的な大きさや多さを喚起させる便利な言葉です。しかし多用すると相手に漠然とした印象を与えてしまうため、適切な表現ではありません。形容詞が強調して修飾している言葉が通常よりどの程度大きく、どの程度多いかは、読み手の主観や経験に大きく左右されてしまうからです。
「あれ」や「それ」など指示代名詞などと同様、日常会話ではまったく差し支えない表現でも、会議資料や打ち合わせなどで使うべきではない表現はたくさんあります。
そもそも、なぜ書き手の意図が的確に伝わらない文章ができてしまうのでしょうか。筆者は正しい日本語で思考できていないために、正しい日本語が選べないことに起因する問題だと感じています。間違っても、書き手のボキャブラリーや表現力不足ではないということです。
人は言語で考え、言語によって他者と意思疎通を図る存在です。簡潔で正しい日本語力を鍛えるだけで、ビジネススキルが格段に向上するのは間違いありません。