アカデミー賞で見せた、レディ・ガガの称賛すべきプレゼンス


筆者はこの振る舞いを見た時、駆け出しコンサルタントだった頃、恩師から口すっぱく言われた事がすぐに蘇った。コンサルタントが行う分析の手法のひとつに、鏡に向かって座るクライアントの背後に立ち、鏡越しでコミュニケーションをとりながら進めるというものがあり、その際に言われた言葉だ。

「この手法のポイントは、鏡越しだからこそ、いつも以上に意識してアイコンタクトをとることだ。そして、クライアントの肩の上にしっかりと手を置いて、褒めるコメントの時には、ギュッと力を込めて握ったり、トントンと叩いたりしながら気持ちを込めて話をしなさい」と何度も言われた。

「触れる」という行為の重要性


人の手を握る、腕や肩に手を置くなどの「触れる」という行為は、ハグと同じように人を安心させるうえで非常に有効な行為だ。そして相手との信頼関係を築くうえで最も重要なことだ。また、同じ目線の高さで話をすることで、説得力が高まり、相互の意思疎通のスピードも一気に加速する。

ただ「触れる」と言っても、遠慮して恐る恐る触れていては相手にも不安感を与えてしまう。かといって、当然だが、ギューギューと力を込めるのも違う。ポイントは、触れた手から自分の意思が伝わっていくようなイメージだ。


ライザ・ミネリの腕に触れるレディ・ガガ/Getty Images

筆者は今日に至るまで、この「触れる」ことの重要性に関する教えをずっと守りながらクライアントに接してきたし、後進の育成の際にも最も大事なことのひとつとして教えている。

ふいに口から出た「I got you」


アメリカのメディアでは、ガガの「I got you」という言葉を、タイトルとして取り上げている記事が多かった。

ノミネート作品名を読み上げる少し前、ミネリがテレプロンプター(指示出し用のカンペ)を読むのに苦労して戸惑う気配を見せた時、ガガはさっと体を屈ませそっと寄り添って「I got you」とささやいたのだ。その後にミネリが「I know. Thank you」と返す小さい声も拾われていた。

このような時に使われる「I got you」の言葉には、「心配しないで」「私が助けます」「安心して」「大丈夫だから」と言う意味がある。この場での「I got you」は、「(大丈夫)分かっていますから(任せて)」といったニュアンスだろうか。台本通りにいかなくても落ち着いて機転を利かせることができるガガの姿には、ライザの尊厳を保とうとするリスペクトの姿勢が現れていた。

プレゼンスには、そういう些細なことが現れるのだ。当たり前に行っている行動や言動の端々に、その人の姿勢が溢れて出てくる。思想、選択、行動、振る舞い、言動、表情、装い、すべてがつながっているのだ。
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文=日野江都子

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