ビジネス

2022.04.04

ベンチャー投資のカギは「キャピタル・フォーメーション」にあり


でも、考えてみてください。「アントレプレナーシップ(起業家精神)」という言葉を私たちは当たり前のように使っていますが、本来のフランス語の語源を知っている人はほとんどいません。資金を集めてテクノロジー企業を立ち上げる、くらいにしか思っていない人もいますが、本来の意味は、「不確実な領域からより確実な領域への経営資源のリアロケーション(再配置)」です。

その意味では、「誰もしたことがなかったことに取り組んでいる人」は、コインベースのブライアン・アームストロングCEOと同じように“起業家”と言えるのです。仮に、そういった人が大きなムーブメントを起こしたいとしたら、おそらくその人ひとりだけでは実現できません。資金はもちろん、人材、人脈が必要になるはずです。そういった概念や、ハウツーを体系的にまとめたものが、キャピタル・フォーメーションなのです。

とはいえ、私にとっての起業家精神の本質は、「顧客の喜び」と「効率性」です。もし顧客を満足させ、それを効率化できれば、売上原価が下がり、新規顧客も獲得しやすくなる結果、他社に比べて優位な価格が設定でき、それが売り上げ増につながる、という好循環が生まれます。ふだんは、これをLTV(ライフタイムバリュー;顧客生涯価値)や、CAC(Customer Acquisition Cost;顧客獲得コスト)といった専門用語で代替していますが、要は顧客に満足してもらい、それを効率化できれば、立派な「起業家」なのです。

そしてベンチャー・キャピタリストは、起業家が立ち上げた会社を支援するのが仕事です。そこまで簡潔に説明できれば、より多くの人にキャピタル・フォーメーションの概念を理解してもらえるようになるのではないでしょうか。


米暗号資産取引所「Coinbase(コインベース)」のブライアン・アームストロングCEO Getty Images

:キャピタル・フォーメーションの概念は、スタートアップ・エコシステムの基盤をなすもののように思えます。ひょっとすると、この概念をどれだけの人が正しく理解できているかどうかも、スタートアップ・エコシステムの質を測る指標の一つになるかもしれません。

それに加えて、「キャピタル(資本)」という言葉の定義も再考の余地があります。日本では金銭という可視化できる資産をイメージすることが多く、一般的には知識や人脈といったものがそこには含まれていません。
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インタビュー=牧 兼充 写真=能仁広之

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