ビジネス

2022.03.26 07:00

前途多難なGMのEV事業、新型SUV発表も納車実績はごくわずか

Photo by Zhe Ji/Getty Images

Photo by Zhe Ji/Getty Images

ガソリン価格が急騰している今は、電気自動車(EV)の高級SUVを発表する絶好のタイミングのはずだ。

ゼネラルモーターズ(GM)は3月21日、キャデラックの新モデル「リリック(Lyriq)」の生産を同日から開始したと発表した。

ベーシックモデルは6万ドル以下という価格設定からいっても、この高級SUVは大ヒットとなってもおかしくないはずだ。

だが、リリックは飛ぶように売れることはないだろう。それは、多少なりとも市場にインパクトを与えるだけの台数を生産できる見込みがないからだ。

ここではっきり言っておこう。プレスリリースや、華々しい言葉こそ数え切れないほど出ているものの、GMはEV事業に本格的には関与していない。現段階で、ミシガン州デトロイトに本社を構えるこの自動車メーカーはむしろ、「EV市場をリードする企業だ」という印象を与えることに腐心している。多くのトップダウン型の組織と同様に、幹部の関心は、顧客が夢中になる製品を作ることよりも、投資家をなだめることにある。

それでも、リリックが見どころに乏しい、あるいはハイエンド機能において物足りないモデルかと言えば、そんなことはない。

リリックは車長が長く、車高は低く抑えられていて、未来的なスタイリングが特徴的だ。122インチ(3094mm)のホイールベースは、スケートボードタイプのプラットフォームをベースに組み上げられている。

20インチの大型ホイールには、キャデラック独自の6スポークのアロイリムが採用されている。シングルモーター形式の駆動系は、最大出力340hp、最大トルク44.9kgmを引き出すと、GMの公式ウェブサイトに掲載されたリリースノートには記載されている。

内部に目を移すと、リリックは広々とした室内空間が印象的で、33インチのインフォテインメント用大型ディスプレイ、19基のスピーカーを持つステレオシステムが採用されている。さらにオプション装備として、ハンズフリー走行を可能にする高度なドライバー・アシストシステム「スーパー・クルーズ(Super Cruise)」が設定されている。これはいわば、「テスラ・キラー」として設計された高級SUVだ。

だがこれは、リリックがはらむ大きな問題でもある。

GMは投資家に対し、テスラに対して最も有力な対抗馬となり、同社との競争に勝つEVを製造する能力があることを証明したいと考えている。リリックはまさにそうした期待を体現している車に見える。スペック上は、採用されている技術もテスラに引けを取らない。しかし残念ながら、リリックは実際には、プレスリリースと、空っぽの生産ラインしか存在しない。

GM幹部たちは、リリックに対する関心は非常に大きいと強調するが、その一方で、実際の顧客からの予約や手付金を受け付けてはいない。また、当初の具体的な生産台数について質問された際、GMの広報担当者は、「以前発表された計画からかなり大幅に」生産を増やすという、曖昧な決まり文句を述べるにとどまったと、CNBCは報じている。
次ページ > GMにはEVを設計する能力はある。

翻訳=長谷睦/ガリレオ

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事