ビジネス

2022.03.25 12:00

キーワードは「一如」「oneness」寄付で世界をとらえなおす


寄付型だからこそ、大切なこと


藤野:今井さんとチームにお金を出しても、お金は減っていない、という感覚がある。仮に、1万円を寄付すると、手元からは1万円札がなくなるが、もし寄付先と心理的につながっていれば、1万円は移動しただけで、減っていないとも考えられる。日本人は、根本的には個人主義な人が多く、投資や寄付をあまりやりたがらないのも、自分と社会との一体感がなく「自分の財布は自分だけのものだ」と考えているから。しかし、投資でも寄付でも「世界はひとつにつながっている」という確信が大事。

以前、臨済宗のお坊さんから「一如」という禅語を教えていただいた。英語では「oneness」という言葉が近い。一如とは、宇宙のすべての大本は一緒という原則。人間は社会的な動物であり周囲の存在と切っても切れない関係にある。日本人はこの一如の意識が希薄化してしまった。社会への寄付で、お金はまったく減ってない。自分も他人もすべて一緒であり、何事も世の中のためになると思えば、寄付も快くできるはずだ。

今井:藤野さんとの対話が「寄付型NPOの経営とは何か」を考え始めるきっかけになった。寄付型NPOの財務的専門家が日本にはほぼいないなか、企業でいう内部留保をどうするか悩んでいた。以前は、いただいた寄付は残してはいけないという感覚があり、キャッシュフローが回らず大変な時期も経験した。いまは安定した支援の義務もわかり、たとえ無収入でも半年から1年支援できる、緊急支援もできる予算を残していく方向で、自分も納得して、寄付者の皆さんにも説明できる寄付型NPOの経営方針ができそうだ。

藤野:D×Pは寄付者へのコミュニケーションも丁寧。支援現場で感じる若者の実態を率直に伝え、自分たちの活動をしっかり開示していく姿勢がある。

今井:支援とお金の情報の開示は、寄付型NPOとしては基本中の基本。「社員の給料を上げますよ」というメッセージも出す予定。社員たちは子育て世代も多いので、基準をもって一定程度給料を上げることを説明させていただく。

藤野:海外には日本の大企業並みの給料を払う非営利団体が多数ある。日本には人のお金を寄付としてお預かりする非営利団体なら、給料をとってはいけないという間違った「清貧の思想」がある。

今井:コロナ禍で迅速な対応ができたのは、支援事業をつくれる「人」がいたから。NPOでも人にお金をかけて、事業モデルをつくっていくことは必要。特に、コロナ禍でも政府の支援が若年層に届くまで時間がかかっていたなか、我々の支援スピードが早かったことは自負している。「寄付は社会をもうひとつつくる資本になる」という話をいつも藤野さんとしているが、その実践になったと言えるのではないか。


藤野英人◎レオス・キャピタルワークス代表取締役会長兼社長、CIO(最高投資責任者)。2003年同社を創業。「ひふみ投信」シリーズファンドマネージャー。著書に『投資家が「お金」よりも大切にしていること』など多数。

今井紀明◎認定NPO法人D×P(ディーピー)理事長。立命館アジア太平洋大学(APU)卒業。専門商社を経て2012年に同団体を設立。18年には、寄付プラットフォームを運営するSOLIOを創業し、代表取締役に就任している。

文=フォーブスジャパン編集部 写真=平岩 享

この記事は 「Forbes JAPAN No.093 2022年月5号(2022/3/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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