鶴田:確かに、特に若い人は成功者の発言をうのみにしがち。でも、新しい価値観をもつ世代だからこそ、生み出せることもあるはず。アンリさんがそれをつぶしたくないという思いで接してくださるのは、本当にありがたいです。
佐俣:そもそも寄付は、支援した金額を忘れるぐらいの感覚でするのがいい。だからソウレッジに10万円寄付したときのことも、正直あまり覚えてない(笑)。僕はこういう支援を毎年10件以上しているし、寄付するのは自分のお金なので、毎回あまり悩まずに決めている。ソーシャルセクターも、スタートアップ同様にシード期の支援が重要だからこそ、飲み会に行くようなカジュアルさで寄付するようにしている。
寄付は「応援の表明」
鶴田:アンリさんが寄付先を選ぶ基準は何ですか。私が突拍子もないプロジェクトを始めても、アンリさんはきっと支援してくださると思っているのですが。
佐俣:「この人はちゃんとやるだろうな」という信頼感。自分にとって寄付は「応援の表明」なので、応援しても問題ないと思える人を支援しています。あんまり「カジュアルに寄付している」と言うと、誰にでもお金を渡しているように思われるかもしれないけど、そんなことはない(笑)。
鶴田:これからもソーシャルセクターの支援活動を続けていく予定ですか。
佐俣:そうだね。自分がやりたいのは、つるたまみたいに社会課題の解決に取り組む人たちが活動しやすい場をつくること。事業活動を拡大していく過程で、心が折れずに、きちんと生活していける環境を整えてあげたい。ソーシャルセクター全体の待遇改善を目指して僕が進めている「脱清貧プロジェクト」もそのひとつです。
いま、自分がソーシャルセクターの支援活動に使っているリソースは5%ぐらいなのですが、本気で取り組もうと思ったら20%は割いて、かつ人を雇う必要があると思ってる。スタートアップよりも結果が出るまでに時間がかかるはずなので、自分の年齢を考えても、そろそろ本格的に動き始めないといけないですね。
鶴田:そういえば、以前ANRIの勉強会に参加させてもらったときに「スタートアップの世界にはこんな勉強会があるんだ!」と驚きました。ソーシャルセクターにもこうした取り組みがもっと広まればいいい。リリースのつくり方などの事業に必要な知識は、自力で学びましたから。
佐俣:フローレンス代表理事の駒崎弘樹さんに教えてもらったことだけど、米国ではソーシャルセクター研究が進んでいて、NPOの活動のゴールが6種類に分類されている。ビジネス化がゴールになる場合もあれば、法改正を達成して解散する場合もある。スタートアップは拡大を目指す発想があるけど、NPOはそうじゃない。こういう最先端の知見を日本のソーシャルセクターが吸収できるプラットフォームもつくっていきたいですね。
佐俣アンリ◎ANRI代表パートナー。リクルート、East Venturesを経て、2012年、ベンチャーキャピタルANRIを設立。シードステージの投資に特化し、現在、気候変動・環境問題特化ファンドなど4つのフラグシップファンドで累計約350億円を運用。
鶴田七瀬◎一般社団法人ソウレッジ代表。1995年生まれ。海外留学やNPOでのインターンなどを通じて性教育の必要性を実感し、性教育を社会の問題としてとらえ、2019年、同団体を設立。「Forbes JAPAN 30 UNDER 30 2021」受賞。