大量生産の商品を可能な限り安く、早く届ける仕事は、アマゾン・ドット・コムや、小売り大手のウォルマートに任せておけばいい。エッツィーは、女性が大多数を占める手作り雑貨のコミュニティを最先端のテクノロジーで支え、かつてない困難な時代に何百万人もの人々に貴重な収入と存在意義を与えている。
シルバーマンは、「私たちの使命は、eコマースを人間味のあるものに保つことだ」と、語る。
eコマース業界の異端児
エッツィーは長年、“eコマース業界の異端児”だった。画家で写真家のロブ・カリンが05年に創業した同社は、CEOを何人も交代させた後、15年に公益性を重視する企業のためのBコーポレーション認証を獲得してナスダックに上場したが、ウォール街は同社の社会貢献の姿勢と赤字を嫌っていた。
16年にエッツィーの純損失は5400万ドルに膨らみ、ヘッジファンドの標的となると、同社は翌年、身売りを迫られた。しかし経営陣はこれに反発。創業当初からの理念と利益追求のバランスをとれる新たなCEOを求めて議論を重ねた結果、選ばれたのが役員会に参加したばかりのシルバーマンだった。
経営難のスカイプを再建した彼は、15年までアメリカン・エキスプレスで勤務。エッツィーのCEOに就任した彼はまず人員削減に着手し、総売上高が1000万ドル以下のプロジェクトを中止にした。
「本当に胸が痛むプロセスでした。やる気があって会社を信じている人には残るように、懐疑的な人には去るように勧めました」
その後、エッツィーのサイト内検索を改善し、社内のサーバーをクラウドに切り替え、顧客サービスに投資。19年までにエッツィーの時価総額は300%上昇し、50億ドルに達した。シルバーマンが指揮を執って以来、同社の株価は約1800%上昇している。
現状の課題の一つは、手作りの一点ものの雑貨をアマゾンと同じくらい簡単に見つけられるようにすることだ。エッツィーは、商品のレコメンドや検索を改善するために、AI(人工知能)で何百万ものユニークな商品を識別し、タグ付けしている。また配送に時間がかかることで悪名高い同社は、売り手と買い手のコミュニケーションを改善し、顧客満足度が高い売り手をサイト上でより目立つ位置に掲載するなどの施策も進めている。シルバーマンは言う。
「売り手には、彼らが欲しいものではなく、必要なものを提供していきます。売り手を満足させるためにも、顧客体験にこだわり抜くことが重要です」