経済・社会

2022.03.25 11:30

コロナ規制撤廃のスウェーデン。現地邦人医師が見た「医療IT国」の実態


横断共有される電子カルテの医療情報


スウェーデンでは全ての国民がパーソナルナンバー(マイナンバー)を所有しており、ありとあらゆる個人情報がパーソナルナンバーに紐付けされている。電子カルテの医療情報はあらゆる医療機関で共有できるようになっており、国民自身が医療アプリから個人認証をして自分のカルテ情報を閲覧することも可能である。PCRなどの検査や診療予約を取ることもできる。

スウェーデンの高度にIT化したシステムは、ワクチン接種でも威力を発揮し、先に述べた優先順位に従って接種が粛々と進められている(図10、3月3日記者会見スライド)。オミクロン波が始まるまでには既に高齢者などリスクグループへのブースター接種がほぼ終了していたため、感染拡大は発生したものの、重症者の数は抑えられた。現在では、80歳以上への4回目の接種が始まっている(図11、3月3日記者会見スライド)。


図10


図11

空前絶後だった第4波


オミクロン株による第4波は、空前絶後の大きな波となった。感染力が強く、子供たちも簡単に感染するため、学校内でのクラスターや家庭内感染は日常茶飯事となった。また、検査のキャパシティーを超えてしまったため、検査対象を限定するようになった。

当初は感染追跡や濃厚接触者の隔離を行なっていたが、それによって自宅待機となり働くことのできない人が増加し、社会のインフラ機能を維持することが難しくなったため、3回接種者などは症状がない限り自宅待機の対象から外された。医療現場でも、ベッドが不足するのではなく、医療従事者の欠勤により業務に支障が出るということがしばしばあった。学校では、職員の人員不足により休校となる学校はあったようだが、多くの生徒が感染して欠席しても基本的に学級閉鎖となることはなかった。

オミクロン株流行下では、多くの子供たちが感染したにも関わらず、スウェーデン公衆衛生庁は、1月、健康な5歳から11歳のワクチン接種は推奨しないと発表した。殆どの先進国で接種対象年齢が5歳以上となっている中、子供達への接種は、他人に感染させないことなどの「利他的」なメリットではなく、子供達自身の感染に伴うデメリットを減少させる「利己的」なメリットが重視された。そして、ワクチン接種の稀な副作用や長期的な副作用のリスクを考慮した結果、病気ではない健康な子供たちが感染しても重症化するリスクは低く、ワクチン接種によるメリットがリスクに比べて大きくないと判断された。このようにスウェーデンが小児の接種に対して慎重な姿勢を崩さなかったのは特筆すべきことである。

筆者宅の9歳の双子の子供達は、2020年3月に家族全員で感染したのに続き、オミクロン株にも感染したが、38度台の熱と軽度の風邪症状だけであった。また、私と夫は、昨年、一度感染し、ワクチン接種から1カ月であったにも関わらず、呆気なく家庭内感染した。
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文=宮川 絢子

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