この考えがYAMAPに発展したのは、同年5月に大分県の九重連山を登っていたときのこと。ふとスマホの地図アプリを見ると、圏外のため地図そのものは表示されていなかったが、自分の現在位置を示す印は表示され、移動もしていた。
「スマホの電波の有無に関係なく位置情報は表示される」。そのことに改めて気づいた時、「自分がやるべき仕事はこれだ」と、ビジネスアイデアが降りてきたという。
「『自然とのつながりを持とう』と言っても、人は“べき論”では動かない。楽しい、ワクワクするといったポジティブな回路で“人”と“自然”をつなぐことを考えたときに、アウトドアや登山には可能性があると感じました。そして、オフラインでも活かすことができるGPSの機能に気づいたことで、YAMAPの構想が浮かんだんです」
イヌイットもGPSを使っていた
その背景には、学生時代にアラスカへ留学した際の原体験がある。
アラスカへは、人間の原点である「他者の生命をいただくこと」を体感するために、狩猟を経験したいという思いで留学。イヌイットの村に滞在し、クジラ猟やアザラシ猟に参加した。
そこは、人口100人にも満たない小さな村だったが、猟には最新のGPS機器や銃が使われていた。2000年代前半、スマホがまだ一般的になっていない時代の話だ。
「人間の原点を知りたいと思って訪問した場所で、最新技術が使われていたことには驚きました。でも、村人に『GPSがあればどれだけ海が荒れても迷わずに家へ帰ることができる。こんな便利な道具を使わない手はない』と言われ、ハッとしました。彼らの道具に対する姿勢が、とても健全に思えたんです」
デジタル・アナログという二元論ではなく、生きていくために必要であれば使い、そうでなければ使わない。都市で生活をしていると実感できないそのシンプルな思考に触れた経験は大きかったという。
「実際に猟に同行する中で、GPSがあることで命を救われた出来事が2度ありました。GPSは単に便利な道具なのではなく、命を守る道具になり得る。この実感があったからこそ、九重連山を歩いているとき、スマホの可能性に気づき、YAMAPの着想を得ることができたのだと思います」
なぜ多くの登山ファンに愛される?
2013年のアプリローンチから9年。多くの登山ファンに愛されるサービスへと成長した。
そのカギとなっているのはコミュニティだ。YAMAPには過去の登山ルートや写真などをシェアする「活動日記」という機能があり、シェアされたコンテンツをきっかけにユーザー同士がつながっている。
「ツールとコミュニティをワンストップで提供している点がポイントです。ツールだけで勝負をしていたらここまでユーザーは増えていなかったと思います。それに、他にもっと良いツールが出てきたら、簡単に乗り換えられてしまっていたと思います」
コミュニティをつくったのは、登山などのアウトドアアクティビティを楽しむ人たちの「熱」をYAMAPに集合させるためだ。