自らも難民キャンプで生まれ、幼少期を過ごしたスイス・ジュネーブの国際移民・健康・開発センター(ICMHD)の事務局長、難民のメンタルヘルスに関する研究の先駆けでもあるマニュエル・カーバロ医師(心理学・疫学)は、母国を離れることになったウクライナの人々について、次のように語っている。
見えるものと、見えないものがある
世界保健機関(WHO)と欧州疾病予防管理センターの顧問でもあるカーバロ医医師が私たちに促すのは、メディアやSNSを通じて目にすることができるウクライナの人々の姿だけではなく、それ以上のものに目を向けることだ。
「ウクライナから避難した人たちが受けた身体的な傷は、簡単に目で見ることができる……だが、難民になることに関わる精神面の問題は、目に見えにくく、おそらくより深刻だ」
今後、さらに多くのウクライナの人々が国境を越えて避難し、何百万もの家族が崩壊することになるだろう。カーバロ医師は、「ひとつひとつの家族の離散が、それぞれにとっての精神的な痛手であり、影響を及ぼす」と指摘する。
コントロール感の喪失とメンタルヘルス
カーバロ医師によると、メンタルヘルスの基礎をなす側面の一つは、自分が何かをコントロールできているという感覚だ。だが、家族と離ればなれになり、難民になるという経験は、その感覚を失わせる。それは、人の「士気を奪うもの」だという。
「コントロールできないということが、私たちの力を奪う。それは将来、私たちが自分自身に思いやりを持てる範囲を狭めてしまうことになる」
「私たちは自らが持つこの感覚に、非常に大きく影響される。コントロール感を失うと、私たちは精神的・身体的な健康に及ぶさまざまな危険や脅威に対して、脆弱になる」