戦略・戦術完全無視 プーチンはこのまま「戦争犯罪人」の道を進むのか

ロシアのウクライナ侵攻に抗議するロンドンでのデモ(2月26日)(Photo by Rasid Necati Aslim/Anadolu Agency via Getty Images)


一部には、補給を待って車列が再びキエフに進軍する可能性を指摘する分析もある。ただ、渡邊氏は「進軍できても、士気は十分ではないとも言われており、市民の抵抗も予期されるなか、この部隊がキエフの市街戦の中でゼレンスキー氏らを拘束する特殊作戦をやることは容易ではないだろう。一方、撤退という選択は、プーチン政権としてあり得ない。第2の戦略目標として、軍事的占拠による東部2州の独立とクリミア併合の既成概念化に切り替えることも考えられる」と指摘する。

だが、プーチン氏は過去、戦略や戦術の常識を覆してきた。今回も簡単に安心はできない。一番懸念懸念されているのが、キエフへの激しいミサイル攻撃だ。テレビ塔への攻撃は、ウクライナ政府や軍、市民たちの情報入手手段を断って恐怖心をあおると同時に、偽情報などを流して混乱を図る情報戦の一環とも言える。ロシアメディアによれば、ロシア軍はキエフの治安当局の施設を攻撃すると警告していた。ただ、ハリコフでは州庁舎が攻撃された。渡邊氏は「攻撃されたハリコフの州庁舎は、明日のキエフの姿だという警告ではないか」とも語る。

現状のままでは、ロシア軍がゼレンスキー氏らウクライナ指導部だけを拘束・殺害することは難しい。ゼレンスキー氏らは頻繁に居場所を変えている模様だ。そうであれば、民間の犠牲も厭わず、巡航ミサイルでゼレンスキー氏らが現れそうな場所を一斉に攻撃する気なのかもしれない。

伊藤氏は「普通に考えれば、そんなことはしない。ロシアに対する国際社会の非難は頂点に達し、プーチン氏は戦争犯罪人だと糾弾されるからだ。でも、これまでの常識を超えたプーチン氏の行動を見る限り、絶対ないとは言えない」と語る。

米国のコンドリーザ・ライス元国務長官やマルコ・ルビオ上院議員らからは、プーチン氏の精神状態に懸念を示す声が上がっている。渡邊氏は「スターリンのように、独裁者は往々にして『自分の地位が脅かされようとしている』という被害妄想に陥りがちだ。戦術核の使用まではわからないが、ロシア軍の行き詰まった状況から、NATOの軍事介入を阻むため、様々な形で恐怖心を与えるといった、エスカレートした行動に出る可能性は皆無ではない」と語る。伊藤氏も「独裁者が理性を失えば、誰も止められない。私たちも『そんなことはありえない』といった理性的な分析だけにとどまらず、最悪のシナリオを常に考え、備えておくべきだ」と語った。

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文=牧野愛博

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