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2022.03.02 07:30

ジェームス・カフナーに聞く、ウーブン・シティは何を目指すのか?




CES 2020で発表されたウーブン・シティの将来イメージには、Autono-MaaS(自動運転車を利用したモビリティサービス)専用の次世代EV「e-Palette」らしき姿が広場にある。場所に縛られない物販や料理の提供が可能になるだろう。コワーキングスペースなども描写、働き方の多様化を前提にしている。

正解がない未来を怖れることはない


カフナーにある日、豊田が「企業の存在理由」を伝えたことがあるという。

「まず、人々に幸せを届ける製品やサービスをつくること。次に、雇用を生み出し、従業員の家族や生活を支え、彼らが夢をかなえる後押しをすること。最後に、支えてくれているコミュニティにお返しするため、税金を払うこと。この3つだけです。株価や利益については何も言われなかった。このミッションには大賛成です。価値をつくり、雇用を生み、製品をつくり、人々に幸せをもたらし、安全をもたらす。これこそが人生をかけるミッションだと思うのです」

カフナーは、何よりもこうした前向きな考え方が好きだという。なぜなら、「人間は何千年もの間、それを行うことで進化してきたから」。それが彼の答えだ。「ウーブン・シティは実証実験の街、ヒト中心の街、未完成の街。このテストコースから生まれたテクノロジーを世界中に輸出できるはずです」。「大学の教員時代、私のミッションは、学生たちが夢を実現し、世界を変えることができるよう、一人ひとりのポテンシャルを解き放つことでした。いまの環境は、夢や向学心をもった学生が入学して来たときの雰囲気と似ています」とカフナーは言う。

ウーブン・シティの建設予定地で感じたのも、この「何かが始まるような高揚感」だ。工事の目隠し板には「東富士工場 53年間ありがとう」の文字。ところどころに残る丁寧な植栽が、人々とともにあった歴史を告げる。「ウーブン」とは「織られた」という意味だ。豊田佐吉の発明に始まるトヨタの歴史をたて糸に、人々が工夫をこらしてきた経験と知恵が織り込まれる。未来を織り込んでいく主役は、もちろん「人」だ。

幼少からコンピュータの可能性を考え、学び続けたカフナーの語った「未来」の言葉がよみがえる。「未来とは、正解がない世界のことだとされます。でも、私は未来に対して楽観的だし、次の世代も楽観的でいてほしい。だから『これから発見されるのを待っている未知があるだけ』というコンセプトが好きです。人は学ぶことで知識のフロンティアに到達できる。先人たちは、人ができることの境界を押し広げ、この世界を変えてきました。今日行動することで、私たちの未来はつくれるのです」
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文=神吉弘邦 編集=Forbes JAPAN編集部 写真=ヤン・ブース

この記事は 「Forbes JAPAN No.090 2022年2月号(2021/12/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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