ビジネス

2022.03.10 11:00

創業初期に「50代」を積極採用 半導体ベンチャーの成功と失敗


──独自技術に対する投資家からの理解は?

人羅:酸化ガリウムを事業に定め、資金調達のためにあるベンチャーキャピタル(VC)を訪問したところ、「製品の価格は? 何個買ってくれるクライアントがいてコストはいくら? それを具体的に示してくれないと投資できない」と言われました。

「研究段階ではお金を集められないのか……」とショックを受けましたね。その後、知り合い経由でシードベンチャーに特化したUTEC(東京大学エッジキャピタルパートナーズ)にアプローチしてみることにしました。すると、前述のVCとはまったく反応が違い、「誰もやっていないこの技術は世界を変えるかもしれませんね、久しぶりにワクワクしました」と面白がってくれたのです。

しかも、「ビジネスプランも一緒に作ろう」と言ってくれ、投資家の方が国際学会にまで参加したうえで、さまざまな提案をしてくれました。

こうして2013年2月にシード投資として数千万円の調達ができたんです。

当時、ディープテックへの投資を得意とするのは、日本にはUTECくらいしかありませんでしたが、それから8~9年たち、状況はだいぶ変わってきていると思います。京都大学イノベーションキャピタルやBeyond Next Ventures、みやこキャピタルなど、プレイヤーがものすごく増え、投資機会は十分に得られるようになりました。2018年のシリーズCで8億円、2019年のDで9.5億円、2021年のEでは10億円と順調に調達ができています。

──経営メンバーはどのように集めた?

人羅:代表を引き受けた後、京都大学の藤田研究室で当時学生だった金子さん(今は同研究室の助教)がチームに入り、もうひとり、CTOという形で若者が合流しました。皆知り合いです。

その後、間嶋は2014年に入社してくれました。彼女は事務担当でしたが、頭角を現して現在は役員でCFOも担当しています。

間嶋千波(以下、間嶋):実は私はハローワーク経由で入社しました(笑)。

取締役の間嶋千波
取締役の間嶋千波(提供=FLOSFIA)

創業期はお金がないので、知り合い経由やハローワークなどお金のかからない方法で求人を出していたんですよね。後々資金を獲得できてからは、リクルートさんなどでも募集をかけるようになりました。

今では50人を超える組織ですが、入社当時の従業員数は10名弱。経理も人事もCFOも経験がなかったのですが、スタートアップではひとりで何役もやらなければいけない。

2015年10月に3億円調達したシリーズBは自分でも初めて、会社でも初めての経験だったので、分からないことは、監査法人も証券会社にも恥ずかしがらずに聞きました。

CFO領域に限らず、詳しい人を見つけたら「この人は絶対に逃さない」と継続的に質問するようにしていました。技術部門や製造部門など、さまざまなチームの話との話も大切にしています。

人羅:最初、資金調達は私が担当していましたが、間嶋の入社後に資金調達を一緒にやってみると、自分がしんどいと思っていることを楽しそうにやってくれるんです。それでCFOを任せることにしました。

一般的なスタートアップのCFO業務だけではなく、技術にも関心を持って耳学問で吸収していく姿勢は、大学発ディープテックのCFOに求められるでしょうね。
次ページ > 若手、中堅は後から増やす

文=今井明子 取材・編集=露原直人

タグ:

連載

大学発ディープテック 新時代

ForbesBrandVoice

人気記事