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2022.02.26

ドラえもんの実現を目指す研究者が、「偏差値50」の大学を選んだ理由

開発中のロボットを手にする大澤正彦


誰か1人が「これはドラえもんじゃない」と思っている限りは、みんなにとっての「ドラえもん」ではない。でも、「これがドラえもんだ」と納得する人がいるのであれば、その人にとっての「ドラえもん」は完成しているわけです。

つまり、“完成の瞬間”があるわけではなく、世界中のあらゆる人がそれぞれのタイミングで「完成」と思ってくれればいい。全員が「完成」と感じる、その日が来るまでは、このプロジェクトは“完了”したとしても、“完成”はしないということです。

なので、ドラえもんの研究者としての僕の役割は、多くの方に「私にとってのドラえもんだな」と思える瞬間を届ける、そのための“種”をつくるところまでだと思っています。



──2020年12月に「次世代社会研究センター(RINGS)」を設立した経緯は。

慶應大で博士課程にいたときに、「この先どこへ行ったらドラえもんがつくれるだろう」と必死に考えました。起業するか、大企業に就職するか……と様々な選択肢を検討しましたが、時間や費用の都合から、既存の選択肢ではどこに行っても絶対に無理だと思いました。

そこで、何かを変えなければいけないと気が付きました。「どこに行って何を変えたらドラえもんができるんだろう」と。その時に考えたのが、「大学を、企業に負けないぐらいの価値創造の場に変える」という発想です。

その突破口は「コミュニティ」。現在の大学は「1人の先生が100人の学生を教える」という構図ですが、それを「100人が100人の学生を教える」といった形に変えるんです。そうした余裕ができれば、学生1人ひとりに合わせた価値軸を認めてあげられるようになって、まったく違う価値創造ができると考えました。その実現のために、まずは日大文理学部で助教に就任しました。

なぜ日大なのか。それは、日大が「偏差値50」の大学だからです。日大にきて、自分を優秀だと思えていない学生にたくさん出会いました。よくよく話を聞けば、周りから優秀だと評価されたこともあまりないという子も多かったんです。でも、そういう学生たちが自分らしく輝ける道を見つけて、自他ともに認める素晴らしい価値創出ができるようになったら、世界が変わる気がするんです。

「偏差値50」は決して“普通の人”を示すラベルではなくて、入試という世の中のわかりやすい価値軸でたまたま真ん中にいただけ。だからこそ、日大にいる学生全員にとって、自分が一番評価される価値軸を見つけられるようなプラットフォームをつくりたいと思いました。
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文=堤美佳子 取材・編集=田中友梨 撮影=小田光二

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