ビジネス

2022.02.27 11:00

経営学者・入山章栄が語る なぜスモール・ジャイアンツは「世界標準」の経営戦略なのか?


面白いのは、代表取締役専務の生方(眞之介)さんには弟さん(生方将)がいて、彼が営業担当の取締役として海外を飛び回り、今回の量産契約を取ってきたこと。小説『項羽と劉邦』に登場する将軍の韓信、もしくは漫画『キングダム』の羌瘣(きょうかい)のように、自ら敵陣に突っ込んでどんどん倒してきてくれるわけです。
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私の知り合いのベンチャー起業家のなかにも、よく「羌瘣みたいな営業が欲しい」と言う人がいます(笑)。絶対に裏切らない弟さんという一心同体の仲間がいるのは、すごく心強いことなのです。


生方製作所代表取締役専務の生方眞之介(写真左)を強固に支えるのは、営業部門の取締役を務める弟の生方将(同右)。一心同体の仲間が世界中を飛び回って新製品の量産契約にこぎつけた。

こうした成功する2代目や3代目の後継ぎには、意外な共通点もあります。大胆にいうと、最初は家業を継ぐ気がなかった人たちが多い。継ぐ気がないから、家業とは離れた遠くの世界を見て経験を積んでくる。言い換えれば、イノベーションを起こすために重要な「知の探索」をしてくるわけです。
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そして、何かのきっかけで家業に戻ってくると、遠くの世界を見ているから、もとある会社に新しい変化をもたらせる。AI搭載の教習システムなどで自動車教習の業界に変革を起こそうとしているミナミホールディングス(福岡県)の江上(喜朗・代表取締役社長)さんも、家業を継ぐ前はリクルートで経験を積みました。

「知の探索」という意味ではワンチャー(大分県)も面白い。輪島塗などの伝統工芸×万年筆という、これまでにない組み合わせによって新しい価値を創出したことはもちろんですが、人材を多国籍化して最初から海外で販売していることがポイントです。

日本の伝統工芸の素晴らしさは、まだ世界に十分認知されていないので、しっかりとブランド化していくと単価も上げられる。ただそのときに、日本人が海外で売ろうとしても、普通はそう簡単に理解してもらえない。だから、従業員を外国人にすることはすごく理にかなっている。この伝統工芸との組み合わせと、外国人材の生かし方には、ほかの商品分野でも応用できる再現性があります。


伝統工芸を装飾した万年筆を手がけるワンチャーは、社員の外国人比率が80%を占める。それぞれの市場に適したマーケティングを外国人社員が行うことで、海外売上比率は85%を誇る。

経営学のなかでも、生物学を応用した「組織エコロジー理論」では、キャリング・キャパシティといって、その環境のなかに、どのぐらいの生物がいられるのかという容量の限界があることを示しています。これを日本企業に当てはめれば、苦しい会社ほど、キャリング・キャパシティがパンパンに埋まっているところで戦っていることになる。ずっとレッドオーシャンにいるわけです。

一方でスモール・ジャイアンツは、自ら「知の探索」を行って、キャリング・キャパシティが埋まっていない領域に飛び込んでいるから、遠い未来を見据えて自由にやりたいことをやって、結果として市場を切り開いている。今回選ばれたのは、みんなそういう会社です。実際に、市場環境が大きく変わりゆくなかで、どの会社も時代のトレンドにうまく乗って飛躍している。このような希望の灯をともしてくれるスモール・ジャイアンツが、この先日本中でどんどん増えていくことを期待しています。


入山章栄◎早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授。慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所を経て、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院より博士号を取得。2019年から現職。著書に『世界標準の経営理論』など。


「Forbes JAPAN」2022年4月号では、スモール・ジャイアンツ受賞各社のインタビュー記事や経営学者・入山章栄、独立研究者・山口周など有識者らによる特別寄稿に加え、ユニークな新規事業に挑む地域発のイノベーターたちをモデルごとに一挙公開。地域に根差しながら、地球規模の視野で、よき未来をつくろうと邁進する彼らの取り組みからは、「いま」そして「これから」の企業のあるべき姿が見えてくる。



構成=眞鍋 武

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