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2022.02.27 11:00

経営学者・入山章栄が語る なぜスモール・ジャイアンツは「世界標準」の経営戦略なのか?

発売中のForbes JAPAN 4月号は、社会の進化を支え、世界に希望の灯をともしている新・中小企業──「スモール・ジャイアンツ」の2022年版を発表。第5回を迎える今年は、これまでで最も多種多様で、時代の先を走る企業が全国から集結した。

特集を特別監修した『世界標準の経営理論』著者で経営学者の入山章栄が、スモール・ジャイアンツの共通項を解説する。


日本の中小企業は、3つの大きな強みをもっています。1つは、変化させやすいこと。経営学では「経路依存性」といいますが、企業はいろんな要素が複雑にかみ合って回っています。だから、1つの要素が時代に合わなくなったから変えようと思っても、ほかの要素がかみ合っていて簡単には変えられない。大企業が変われない理由はそこにあるんです。ところが、中小企業は規模が小さいので、全体を変えやすい。実は大企業よりも変化に対してチャンスがあるのです。

2つ目は、ほとんどの会社が未上場で少数株主なので、経営の方針について投資家からうるさく言われないこと。3つ目が、ファミリー経営や、創業者がずっと代表を務めている会社が多く、長期的な視点が取れることです。

私が日本の企業にとって極めて重要だと考えている経営学の視点に「センスメイキング理論」、いわゆる腹落ちの理論というものがあります。平たくいうと、変化が激しく不確実性の高い環境のなかで、会社の長期的な方向性に対して、組織のメンバーやステークホルダーを理解、納得させて足並みを揃えること。大企業だと、社長が頻繁に交代して方針が変わることが多いですが、中小企業はトップが腰を据えて経営に臨むのでセンスメイキングしやすいのです。

スモール・ジャイアンツは、こうした強みを生かして、うまく時代をとらえた「新・中小企業」といえます。自らの経路依存性を取り外し、長期的な視点でセンスメイキングして未来を切り開いているのです。

具体的に今回の特集で選出した会社を見ていきましょう。例えば、特殊銅合金メーカーの大和合金(埼玉県)です。同社は究極のクリーンエネルギーといわれる核融合発電の領域に向けた特殊銅素材の技術開発に15年前から挑戦し、2021年に国際核融合実験プロジェクト「ITER」からの受注を果たしました。

15年前といえば、SDGsの概念もまだなかったですし、いまほどカーボンニュートラルも声高に叫ばれてはいませんでした。「まだ市場はないけれども、これから大きくなるかもしれない」という領域に早い段階からコツコツと挑戦を重ねてこられたのは、まさにセンスメイキングのたまものといえます。そして核融合はこれからの市場です。


特殊銅合金の大和合金は、素材の溶解から鋳造鍛造、熱処理、加工、検査まで一気通貫で展開。少量多品種の生産が可能な強みを生かし、15年にわたって核融合領域の研究開発に取り組んできた。

原子力発電では、日本製鋼所が圧力容器でグローバル市場を抑えて大成功しましたが、大和合金には似たようなチャンスがあると思います。

ゲームチェンジを勝機に変える


ハードウェアですごくニッチなことをやっている会社にも、大きな可能性があります。電気自動車(EV)に搭載される水加熱ヒーター向けの高電圧・大電流用直流遮断デバイスを世界で初めて開発した生方製作所(愛知県)もそうでしょう。というのも、これからゲームチェンジが起きる分野のひとつは、間違いなく自動車です。

超巨大な裾野産業で、完成車メーカーから細かい部品のサプライヤーに至るまでにはたくさんの階層があります。それが、エンジンのないEVが登場し、従来のように多くの部品が要らなくなってきた。極端なことを言うと、これから時間をかけて産業構造が崩壊する可能性が高いわけです。そうなったときに、既存の大口顧客との取引に依存しているような会社は行き詰まってしまう。

一方で生方製作所は、これから伸びるEVに目を向けて、誰にもつくれなかった直流遮断デバイスを開発し、自力で量産の契約にこぎつけた。ゲームチェンジが起きるなかで、ニッチな得意分野の技術を研ぎ澄まして新境地を切り開いたという意味で、変化を勝機に変えた象徴と言えるでしょう。
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構成=眞鍋 武

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