数年の時を経て、2019年に立ち上げたのが環境スタートアップ企業「イノカ」だ。
同社は、IoTやAIで明るさや水温を管理し、水槽内に海の生態系を再現する技術を持つ。とりわけ、海洋生物の25%が依存していると言われるサンゴを人工的に生み出すことに挑んできたが、今年2月、ついに人工産卵に成功した。
本来、サンゴは沖縄の海で6月に卵を産むが、時期をコントロールしての産卵は世界初となる。
さらに環境意識の高まりも後押しし、イノカの技術は、企業による研究や、ワークショップなど教育事業として引き合いが増えている。
イノカのオフィスに置かれた水槽(撮影=藤井さおり)
Forbes JAPANが「30 UNDER 30 JAPAN 2021」に選出した起業家でもある高倉だが、大学時代は友人と事業を起こしたものの、人生を捧げる決定的なものが見つからず悩んだ。
転機となったのは、大学4年次に起業塾でリバネスCEOの丸幸弘氏と出会ったことだ。厳しくも愛のある指導を受けながら、高倉はいかにしてこのユニークな事業を形にしていったのか。
幼い頃から始めたものづくり
高倉は、子どものころからものづくりが好きだった。中学生のころにはポルノグラフィティに憧れてギターを始め、買えば何十万もするようなエフェクターを、部品を買い集めてはんだ付けを覚え、回路図を見ながら自作した。
人の下で動くことが性格上好きではなかったこともあり、「起業家になりたい」との思いは高校時代から漠然と持っていたという。
親からは医者になることを勧められたが、血が苦手だったため、ものづくりで起業するという思いを胸に東京大学工学部に入った。
在学中には、ハードウェア制作会社の共同創業や、 NTT ドコモベンチャーが実施していたインキュベーションプログラムに採択され、支援を受けながらの製品開発を経験。
スマートフォンの画面操作の基礎となる研究などで知られる東大大学院教授の暦本純一氏の研究室にも所属した。
ものづくりで起業という目標に王手をかけたかのように見えた高倉だが、人生をかけてやりたいことが見つからないと感じていた。
そんなときに出会ったのが、リバネスCEOの丸氏だ。
高倉は、大学4年生のときに「MAKERS UNIVERSITY」という起業塾に入塾。そこでは、著名な経営者のアドバイスをもらいながら実際に事業を展開していくというゼミがあり、そのゼミをリードする経営者の一人に丸氏がいた。