ビジネス

2022.02.23

世界初、冬の人工産卵に成功 鉄鋼大手も注目する「サンゴビジネス」

イノカCEO 高倉葉太(撮影=藤井さおり)


JFEスチールと協業でサンゴが成長


ESG投資など、環境意識が高まるなか、イノカのサンゴを使った研究に乗り出す企業もある。

鉄鋼大手のJFEスチールでは、製鉄の工程で生成される副産物の鉄鋼スラグを活用し、さまざまな製品を製造している。その一つ「マリンブロック」は海域の環境改善に適し、以前からサンゴが着生しやすいことが分かっていた。このことから、イノカの水槽を使い、マリンブロックのサンゴ再生の場としての機能を検証しようと考えた。

取り組みは2020年冬ごろから始まり、最初はマリンブロックに接着剤で付けたサンゴが、徐々に自らの力で付着するようになり、順調に成長しているという。

JFEスチール
JFEスチール本社の受付フロアに設置された水槽。左下に置かれているのがマリンブロック。サンゴが着生していることが分かる(提供=JFEスチール)

鉄鋼業では、もともと二酸化炭素排出量が多く、古くから環境問題への取り組みが行われてきた。鉄鋼スラグ製品も以前から有効活用されてきたが、近年は社会の環境意識の高まりを受け、これらの取り組みにいっそう注目が集まってきているという。

「鉄鋼スラグは環境に良くないという誤ったイメージを持たれる場合もあります。そこに、SDGsという観点での活動をアピールしていくことで、実はそうした副産物が海域の環境や生態系保全にも良い効果をもたらすことを多くの方に知っていただきたいと考えています」(JFEスチールの担当者)

イノカは、こうした環境意識の高まりに勝機を見出している。

創業してから、環境事業に明確なビジネスモデルがなかったが、今ようやく一つの形が見えてきた。

追い風になるのは、企業に対して生物多様性についての取り組みの開示を求める「TNFD」(自然関連財務情報開示タスクフォース)を策定する動きが活発化し、ゆくゆくはその対応が求められていくということだ。

「環境に対する日本の動きは、欧米各国と比べて非常に遅い。なので、領土の12倍もある領海を持つ日本ならではの取り組みとして、海に関する生物多様性の開示の枠組みは、日本からつくっていきましょうと日本の企業に働きかけています。今は少しずつ話を聞いてくれる企業が増えているので、今後もこの活動を進め、いずれは政府から支援されるプロジェクトになればと思っています」

文=三ツ井香菜 取材・編集=露原直人 写真=藤井さおり

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