筆者が創業したコンサルティング企業リーダーシップIQによる調査「Resistance To Change(変化への抵抗)」では、「自分が働いている組織は、抱えている困難や課題を常にオープンにしていると思う」と回答した従業員の割合は、わずか15%だった。企業とその経営を担う幹部が、差し迫った脅威や困難を率直に話し合おうとしない場合、透明な企業文化が存在するとは言い難い。
そこで、ある企業の最高経営責任者(CEO)を紹介しよう。彼は、自社の急成長を後押しするべく、抱えている困難や課題を隠し立てせず取り上げて話し合うアプローチを取り入れている。セールスフォースのサービスを、非営利組織と高等教育機関向けに導入するパートナー企業クラウド・フォー・グッド(Cloud for Good)の創業者でCEOのタル・フランクファート(Tal Frankfurt)だ。透明で誠実な企業文化の構築に向けて同氏が取り入れているアプローチは、シンプルで巧みなものだ。
フランクファートは、そのアプローチについてこう説明している。「四半期ごとに開催される経営会議では、成立した契約2件と、成立しなかった契約2件を取り上げて議論を行う。何らかの理由で成立しなかった契約2件については、失敗した原因や、偶然の出来事だけに目を向けず、深く掘り下げて貴重な教訓を得たいと考えている。例えば、サービスとセールスがうまくかみ合わなかったのではないか、あるいは、懸念事項を正しいかたちで伝えられなかったのではないか、といったことを話し合う。多くの企業では、実績しか取り上げない。当社ももちろん、達成した実績を分かち合いたいが、それだけでなく、失敗から得た教訓も共有したいと考えている」
この「成功例2件と失敗例2件」を取り上げるアプローチによって、経営陣は全員、透明で隠し立てしないやり方を受け入れようという思いを強くする。
会社が今後も急成長していくうえで必要なのは、リーダーたちが頭の痛い問題について見て見ぬふりをしたがる人間本来の傾向に抗うことだと、フランクファートは考えた。「大体の人は、自分が犯したミスを隠そうとする。しかし、ミスをしてもそれを明かさず、同じミスをふたたび繰り返すとしたら最悪だ。さらにそれより悲惨なのは、ミスを黙っていたせいで、他の人まで同じミスを犯してしまうことだ」