しかし、今年に入って、暗号資産への慎重な姿勢に対して変化が見られてきた。政府機関である米連邦預金保険公社(FDIC)の支援を受け、USDFコンソーシアム(USDF 共同事業体)が、独自にドルと連動するステーブルコイン「USDF」を開発、パブリックブロックチェーンであるプロヴェナンス・ブロックチェーン(Provenance)上で運営すると発表したのだ。
このUSDFコンソーシアムには、ニューヨーク・コミュニティ・バンク(ニューヨーク州)やスターリング・ナショナル・バンク(ニューヨーク州)をはじめニューヨーク近郊でも馴染みが深い地銀などが参加している。先日、同じくコンソーシアムを構成するNBH銀行(コロラド州)がUSDFを発行して、ニューヨーク・コミュニティ・バンクの顧客に送金して、試験運用も行なった。
ステーブルコインは「他の暗号資産より価格が安定しているという」意味でこう呼ばれるが、既に「ドルペグ」、つまりドルと1:1で連動するようデザインされたテザー(USDT、2015年スタート)とUSDコイン(USDC、2018年スタート)が発行されている。これらは民間主導のドルと連動したノンバンクが発行するステーブルコインであり、世界中で取引され、流通量は急増してきた。
対して後発のUSDFは、前出の米連邦預金保険公社の支援を受け、民間ではなく銀行間の取引で相互運用を始めた点で、ステーブルコインとしては一歩前進している。米銀最大手のJPモルガン・チェースもUSDFの銀行間の相互運用性の必要性を表明しており、ここにきて暗号資産をめぐるハードルは徐々に緩和されてきていると言ってもよい。
デジタル人民元がドル覇権の脅威に
加えてアメリカにおける暗号資産に対する追い風は、海の向こうからも吹いてきている。
2016年にIMF(国際通貨基金)は、中国人民元に対して正式にSDR(Special Drawing Rights=特別引出権)を認め、これによって世界第3位の主軸通貨入りを果たした。また中国では2022年に入ってから北京五輪に向けて、デジタル人民元のウォレットアプリが配信開始された。これには主要国で初めて法定通貨としてデジタル人民元を先んじて浸透させようという意図が読み取れる。
デジタル人民元の運用が中国国内のみに留まれば、急にはドル覇権の脅威にはなりえないが、国外での流通をどうするのかはまだ見えてこない。ただいずれは世界の主軸通貨としてユーロを抜いて中国人民元が第2位となり、ドル覇権の脅威になる可能性は大いにある。
世界の外貨準備高のなかで、ドルは2020年の時点で59%。ユーロの20%前後を大きく引き離しているものの、この25年で71%から59%へと、17%も減少し、ドル離れが起こっているのも確かではある。
ブルムバーグ・ニュースによれば、バイデン大統領は、2月早々にも暗号資産に関する政府のアウトラインとリスクとチャンスを判断するよう連邦政府機関に求める大統領令を出すことを検討しているという。まさに中国からの脅威によって、暗号資産に対する慎重な姿勢も揺らいでいると言ってもよいかもしれない。
ドル資産のアメリカ国外での残高も考えると、政府機関がバックアップするステーブルコインであるUSDFの発行は、海外で流通しているドル資産の価値を損なわないように行わなければいけないため、当面国内流通のみのデジタル人民元に比べるとハードルは高い。
しかし、今回の政府機関の支援を受けたステーブルコインであるUSDFの運用開始は、アメリカ政府はまだ検討していないとは言うものの、いずれは中央銀行デジタル通貨(CBDC) につながる1つの大きなステップであるかのように見える。
連載:ポスト・コロナのニューヨークから
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