もっとも、実際にNFTを買ったことがある人はまだまだ少ないし、どのような作品を購入したらよいかわからない人も多いだろう。
そこで、今回は、筆者が2021年に購入したNFTアートを紹介したい。少しでもNFTアートに興味を持つきっかけになれば幸いである。
過去から未来を描き、現在のアクションにつなげる
アンナ・リドラー&キャロライン・シンダーズ「Fragments: 30.2051° N, 90.1121° W」
アンナ・リドラー&キャロライン・シンダーズ「Fragments: 30.2051° N, 90.1121° W」(2021)
出典:OpenSea
「Fragments: 30.2051° N, 90.1121° W」は、AIを用いた作品群で構成されたマーケットプレイス「Feral File」での展覧会「Reflections in the Water」で発表された作品である。30秒の映像作品なのでぜひリンクからアクセスしてご覧いただきたい。
この作品は、アンナ・リドラー(Anna Ridler)とキャロライン・シンダーズ(Caroline Sinders)というアーティストのコラボレーションによって制作され、アメリカ南部の湾岸に生息するラクウショウ(落羽松)という数千年もの寿命を持つ落葉針葉樹に関するデータセットを利用している。
ラクウショウは、この地域の海岸浸食を食い止めるための重要な役割を果たしてきたが、気候変動や毎年のように起こるハリケーンによって影響を受けている。
そこで、リドラーとシンダーズは、このデータセットを使ってGAN(Generative Adversarial Network=敵対的生成ネットワーク)を学習させ、ラクウショウの増減によって、この地域の未来を可視化した。また、この作品は、この地域で直近に発生したハリケーン「アイダ」によって生成された気象データによってコントロールされている。
作品を見ると、ラクウショウが増えると水位が下がり、ラクウショウが減ると水位が上がる相関関係が描かれていることがわかる。
2人のアーティストはともにアメリカ南部に家族を有し、この地域に関する長期的な研究プロジェクトを開始しており、この作品はプロジェクトの一環として制作された。
この作品の販売収益は、ハリケーン・アイダの救援・復興基金(Hurricane Ida Relief & Recovery Fund)に寄付され、ルイジアナ州ニューオリンズ全域に分配される。
このように、アーティストは、過去のデータセットを利用して未来を描き、その未来から現在のアクションへとつなげているのである。NFTアートは誰でもデジタルデータにアクセスできるため、NFTを使うことで作品をオープンにして、より広くメッセージを伝えることも意図している作品と言ってよいだろう。