また、北朝鮮軍は、敵から反撃を受けないように夜間にミサイルを搭載した移動発射台を移動させ、発射準備を行うケースが多い。発射時刻が夜明けになる場合が多いのは、ある程度明るくならないと、発射したときの追跡が難しいことや安全を考慮した結果だ。同時に、敵に見つかることを避けるため、夜が明けるやいなや発射する。訓練は常に実戦を想定して行うから、どうしても夜明けの発射が多くなる。14日の発射については、北朝鮮外務省が同日朝、米国を非難する声明を出していた。そして、北朝鮮軍総参謀部が同日午前に、ミサイル発射の命令を出しており、米国への反発が原因ということだろう。17日の発射は、友好国の中国に配慮して、2月4日に開幕する北京冬季五輪までに軍事行動を終わらせようという「駆け込み発射」の意図がありそうだ。
いずれにせよ、日本の危機管理担当者にとっては迷惑このうえない話だ。かつて、この危機管理を担当していた人々から、一体どうやって生活していたのか、聞いたことがある。ある人は「すぐに飛び出せるよう、スーツを着て寝ていた」と話した。別の人は「寝室から玄関まで、ワイシャツ→スラックス→靴下→上着という順に置いておき、歩きながら着替えた」とぼやいた。また、ある人は「サウナが好きだが、気が気ではないので、数分ごとに外に出て携帯を確認していた」と振り返った。
政府は「初動態勢の強化」を達成すべく、官邸から5キロ以内の場所にこうした人々のための官舎を作った。逆に、担当者たちは週末であろうと、この5キロ圏内の輪から外に出られない。また、いくら5キロ以内でも、「15分ルール」は厳しい。深夜や未明の時間はタクシーも捕まらないかもしれない。だから、みな自転車を持っているという。
そんなにまで苦労して、首相官邸地下のオペレーションルームに到着しても、発生15分後の段階では、ほとんど情報が入ってきていない。戦争映画さながらの大型スクリーンがあり、そこに自衛隊や海上保安庁などから入ってきたデータを入力していく。元高官は「15分や30分程度の時間では、ニュースの情報が先行しているのもしばしばだった」と語る。
ただ、とにかく早く詰めていれば、そこから政府がどんな態勢を取るのか、最速で決定できる。ミサイルなら落ちてしまえばそれで終わりかもしれないが、地震や台風は被害が徐々に広がる場合もある。ミサイルだって万が一、日本に落下すれば、そこから被害が発生することになる。オペレーションルームは情報保全のため、携帯は通じない。飲食を提供する設備もない。官僚たちはひたすら、そこで危機管理の対応に励む。
ミサイルが発射され、何事もなければ、「ああ、またか」で終わるのが世の常だが、縁の下で支えている人々がいることにも、また思いを致したい。
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