日本ワインの新たな幕開け 醸造家・三澤彩奈の新作「三澤甲州2020」

1923年創業の中央葡萄酒・グレイスワインの5代目、三澤彩奈さん。仏ボルドーや南アフリカに留学し、世界各地でワイン造りを学んだ。2004年から家族経営のワイナリーに参画。


甲州は、若いうちに楽しまれるものが主流であるが、甲州のポテンシャルを信じる彩奈さんは、甲州は熟成してから本質が出てくると考え、長期にわたり熟成できるワインを造ることを目指している。

今回のお披露目会では、中央葡萄酒の蔵で静かに熟成された、「キュヴェ三澤明野甲州」の2013年と2015年も供された。

2013年は、長年垣根栽培に取り組んできた結果、小粒で糖度の高いブドウが収穫でき、凝縮感のあるフレーバーが実現できた年。その年の「キュヴェ三澤明野甲州」は、前述の英ワインコンクールで金賞を獲得したターニングポイントとなったワインであり、彩奈さんとしても思い出深いものだ。

それぞれ、2013年は子牛の胸腺と栗の料理、2015年は白子と秋蕪の料理と合わせられた。石田氏はペアリングについて、「栗や蕪など、ほっこり穏やかな味わいが甲州と合うと考えます。味わいだけではなく、口に含んだ時のテクスチャも合わせました」と説明する。

この日は、さらに時を遡り、彩奈さんの祖父が造った1970年の「グレイス甲州」も披露された。こちらは、甘口のワインで、柿とフォアグラのデザートと合わせて供された。トリュフ香とドライフルーツの熟成したフレーバーの中に、凛とした生命力を感じるワインで、口に広がる優しい甘美な余韻に浸りながら、三澤家が代々甲州にかけてきた想いを感じる、幸せなひと時だった。


グレイス甲州1970

産地の特性や日本らしさも大切に


明野の三澤農場では、甲州だけではなく、シャルドネやカベルネ・フランといった国際的なブドウ品種も栽培されている。お披露目会では、メイン料理とともに、明野のカベルネ・ソーヴィニョンで造られた赤ワイン、「キュヴェ三澤プライベートリザーヴ」の2009年が供された。

2009年は冷涼な年だったが、秋雨に降られず、天候に恵まれた良作年となった。このワインは、ブルーベリー、黒スグリ、チェリーやスパイスなどの豊かな味わいのなかに、酸がすっと一筋通っていて、エレガントさと爽やかさが印象的だった。


一連のテイスティングは、中央葡萄酒のワインの一貫した質の高さと、三澤家の歴史と進化が感じられるものだった。

今後の目標について聞いたところ、彩奈さんは次のように語った。

「これまで甲州の伸びしろを追求してきました。これからは産地特性をワインに表現していくことも大切にしていきたいです。テロワールという言葉がありますが、日本人の観点で洞察する自然観や地域特性も深く掘り下げたいと感じるようになりました。

最近、日本人が書いた古い書物を読んだのですが、『風土とは大気でも大地でもない、気候でも土質でもない、独立した接触面である』という一節に触れました。科学を無視したワイン造りには感心しないのですが、テクノロジーが結集されたワイン造りにも文化的な魅力を感じることができずにいます。日本の美のようなものを掘り下げてみたいです」

こういう造り手がいるからこそ、日本ワインは前進していくのだろう。これからも注目し続けたい。

島 悠里の「ブドウ一粒に込められた思い~グローバル・ワイン講座」
連載記事一覧はこちら>>

文=島悠里、写真=島悠里、ワイナリー提供

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事