日本ワインの新たな幕開け 醸造家・三澤彩奈の新作「三澤甲州2020」

1923年創業の中央葡萄酒・グレイスワインの5代目、三澤彩奈さん。仏ボルドーや南アフリカに留学し、世界各地でワイン造りを学んだ。2004年から家族経営のワイナリーに参画。


中央葡萄酒は、明野の有利な天候条件のもと、糖度が高く、小粒でフレーバーが凝縮したブドウを実現し、また、甲州種が持つブドウ自体の力で、熟成に耐え得るポテンシャルの高いワインを作ることを目標に試行錯誤を行った。例えば、これまで棚仕立による栽培が一般的だった甲州を垣根式での栽培に挑んできた。

長年の苦労の末、明野の甲州は、2012年頃から、これまでの常識を覆すような糖度の高さを実現するに至った。そのブドウから造られるワインは、優しく軽やかな飲み口ながら、果実の凝縮と厚み、奥行き、芯が通った力強さがある。


2021年11月に新リリースされた「三澤甲州2020」。旧「キュヴェ三澤 明野甲州」から名称を変え、ラベルのデザインも一新された。

今般新しくリリースされた「三澤甲州2020」はさらなる変化を遂げ、これまでと一線を画すワインだ。新たな特徴として、醸造時に、甲州ではめずらしいマロラクティック発酵(乳酸菌がワインに含まれるリンゴ酸を乳酸と炭酸ガスに分解する発酵)が起きたことがある。これにより、シャープな酸からまろやかな酸になり、バターといった追加的な風味が加わり、クリーミーな口当たりで複雑味のある、より豊かなワインに仕上がった。

この背景には、明野の甲州に一般的な甲州ブドウより“リンゴ酸”が多く含まれることがわかり、2017年から試験用の樽からマロラクティック発酵が自然に起きることが確認されたことがある。

彩奈さんは、「これは明野の土地の特性なのではないか」と感じ、この特徴を活かしたワイン造りに転換。さらに、その土地の特徴を反映させるため、培養酵母ではなく、畑に根差した土着酵母でのワイン造りに取り組んだ。こうして、冒頭の発言にあるように、醸造の技巧に頼ることなく、ブドウ本来の力とそのブドウが育つ土地の個性を引き出したワイン造りに励んでいる。

新たなワインも、熟したワインも


新たな転換点となる「三澤甲州2020」に、レストランローブのソムリエ石田氏は、鎌倉野菜と牡蠣の料理を合わせ、その理由を次のように語った。

「このワインは、味わい深く、ふくよかでボリュームがあり、マロラクティック発酵に由来するバターっぽさが少しあります。冬のエネルギーを備えた、大地の強さを感じる野菜ですが、その滋味深さがワインと共通するところです」

さらに牡蠣のクリーミーさが、このワインのまろやかな口当たりと調和し、料理とワインがお互いを讃え合うような見事なペアリングだった。
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文=島悠里、写真=島悠里、ワイナリー提供

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