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2022.01.14

「公務員という職種はない。」の佐賀県庁で活躍 ミクシィ出身の熱血漢

 佐賀県の採用ポスター


佐賀玄海漁協とポケットマルシェの連携へ


現在は、さが県産品流通デザイン公社に所属する。聞きなれない言葉ではあるが、佐賀県内の事業者の販路拡大を支援する組織である。最近のトピックでは、佐賀玄海漁協と全国の農家や漁師などの生産者と消費者をつなぐ国内最大級の産直アプリ「ポケットマルシェ」との全国初の3者連携がある。

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楢崎氏

佐賀県北部に面する佐賀玄海地域には、漁獲量の減少や担い手不足、高齢化といった課題があった。その上、昨今の新型コロナウイルス感染拡大である。飲食店や宿泊施設などに卸す高級魚の需要が激減し、魚価が大幅に下落。漁協としても、漁師の売上を守り、漁業を続けてもらうことが命題に。そこで、玄海漁協とポケットマルシェと連携することで、珍しい漁師の直販が始まったのだ。

「佐賀玄海地域は、ロットは少なくても多品種の魚介が獲れるので、直販の相性がいいと考えています。ただ、漁師の皆さんにとって直販は初めてのこと。職人として漁業をやってきた中で、お客さんとのコミュニケーションや、売るための写真や文章の工夫が必要となります。また、内臓や鱗を取る作業は衛生管理上、自宅ではできません。今回、漁協側はそのための施設をつくってくださいました。漁協側も漁師が見栄えの良い魚介を納品してくれることで、単価が上がるといったメリットがあります。そもそもの漁協に売上の数パーセントは納めるという仕組みを変えていないので、双方にとってウィンウィンの関係かと」

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実際に直販を行う漁師・吉田善史氏にもうかがった。漁師歴16年目を迎える吉田氏は家族ら5人で牡蠣漁を行う。年間20トンほどのとれ高であり、昨年度、トライアルで参加したポケットマルシェで5トンを売り上げた。パソコンなどの操作には不安があったが、販路拡大は避けられないテーマとなっていた。漁協から今回の説明があった際に、迷わず手を挙げたという。

「ポケットマルシェの牡蠣販売者を研究しました。写真や文章、そして、お客さんとのコミュニケーションについても。自分で販売するので、牡蠣を届けて終わりではありません。大変な分もありますが、お客様から感謝の言葉をもらったり、勇気づけられることも多いです」

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漁師・吉田善史氏

1件の注文で3、4回のメールのやり取りが発生する。繁忙期ともなれば注文が1日100件を超えることも。たまらず個人用と仕事用にスマートフォンをわけた。ただ、こういった努力もあってか、今回吉田氏をはじめとした、漁協とポケットマルシェの連携で出店した漁師たちが、全国のポケマル生産者ランキング、週間漁師部門でTOP10に3人ランクインすることも。

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スマホを2台持ちしてお客さんに対応

「漁師は名刺をもっていない」問題もクリア


「さが県産品流通デザイン公社には、色んなアドバイスをもらっています。出品・販売についてのフィードバック研修を行なってもらったり、商品の500円オフキャンペーンもご提案いただきました。また、我々漁師は名刺をもっていないケースが多く、そこの問題もクリアしてくださいました」

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牡蠣のデザインが施された吉田氏の名刺

変わる公務員の仕事。佐賀県庁では上意下達ではなく、自身の知見を活かして仕事に携わる人たちが増えている。その土台として共通するのは、“佐賀県をより良くしたい”の想いだ。今回の漁協とポケットマルシェとの連携によって、これまで佐賀の魚介がリーチしていなかった層にプロモーションできたという。前例がないからできないではない、だからこそチャンスがあるのだ。

今回のように漁協が漁師の直販を許すのは珍しいこと。ただ、その初モノ感にニュースのバリューがあることを、民間出身の楢崎氏は知っているのだ。


上沼祐樹◎編集者、メディアプロデューサー。KADOKAWAでの雑誌編集をはじめ、ミクシィでニュース編集、朝日新聞本社メディアラボで新規事業などに関わる。立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科を修了(MBA)し、大学で編集学について教えることも。フットサル関西施設選手権でベスト5(2000年)、サッカー大阪府総合大会で茨木市選抜として優勝(2016年)。

文=上沼 祐樹 編集=石井 節子

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