すでに実用化している例では、コーヒーカップのシェアリングを実現したロンドンのスタートアップ「CupZero(カップゼロ)」があります。2015年にCupClub(カップクラブ)として創業した同社は、世界で年間160億個廃棄されていると言われる使い捨てコーヒーカップに注目。マクドナルドやスターバックスと協力して、加盟店でシェアできるリユース可能なポリプロピレン製のコーヒーカップを提供しています。
カップゼロのユーザーは、どのショップでコーヒーを購入したかに関係なく、加盟店ならどこでもカップを返すことができます。さらに、使い捨てカップと同じレベルで便利に使えるよう、街中に“回収ボックス”の設置も進めています。
秘密は、カップにRFIDが取り付けられていること。店頭でユーザーの手に渡った後、戻ってくるまでの過程をトラッキングすることができます。ちなみに、このサービスを利用することで、CO2排出量は使い捨てカップの半分に抑えられます。
また、アディダスは2019年にイギリスで、自社の中古スニーカーの買い取りサービスを開始しました。個々のスニーカーに独自のデジタルIDを付与することで、本物のアディダス製品かどうかを見分けることができる仕組みです。買い取った製品は、クリーニングして再販したり、パーツごとに再利用したりされるため、循環サイクルを作ることに成功しています。
ここで特筆すべきは、両社とも社内で完結させるのではなく、パートナー企業や顧客を巻き込んで実現したという点です。環境にポジティブなアクションを求めるリジェネラティブな取り組みは、共創・協業を通じたイノベーションから生まれるものなのかもしれません。
視点を変えることで見えてくるもの
なお、循環型ビジネスを構想するうえで、よく議論になるのがプラスチックです。日本でも、ここ数年で「脱プラ」の動きが一気に進みました。一方で、リジェネラティブな視点で見たときに、プラスチックが持つ利点を再考する動きも出てきています。
プラスチックの原料は、原油を精製して得られるナフサ。製造段階でエネルギー資源を消費しCO2を排出するため、環境負荷が高いとされることがあります。ただ、逆にエネルギー資源の節約になるケースもたくさんあります。
プラスチックは食品包装の役割を果たす素材でもあり、食品の品質を保つことができるので、食品の廃棄を抑えることにつながります。また、ガラスや紙と比べたときのリサイクル性も評価すべきです。ガラスの製造とリサイクルには多くのエネルギーが必要となりますし、紙はリサイクルできる回数が少ないのです。
リジェネラティブな経済を推進するエレン・マッカーサー財団のアンドリュー・モーレーCEOも、「プラスチック自体は優れた素材で、100年間保管した後でも再利用し続けることができる。いかにしてそれを経済圏内にとどめ、自然のシステムから排除するかに焦点を当てる必要がある」と述べています。