興味深いのは、地域の評議員として、男女の出会いの場であるクラブの女性オーナーの話を聞く場面だ。「女性の会員は男性の2倍もいる。未婚女性の数は男性の5倍、独身者が増えて出生率が落ちている」と嘆くオーナー。女性の社会進出が進んだ国で、70年代後半早くも起きていた現象は、そのまま現代日本に当てはまる。
一方、リューダは夫のホッケー選手が酒で身を持ち崩して離婚、カーチャとは明暗がはっきり分かれている。夫と義母と3人の子供と共に郊外で暮らす農家の専業主婦トーシャは、幸せそうだ。
社会進出と結婚生活の行方
3人3様の中で、社会的には一番成功しているカーチャだが、どこか虚しさも覚えている。そんな折に偶然出会う組立工のゴーシャの人物造形が、なかなか面白い。こわもてな外見ながら言葉にはユーモアと洞察力が滲み、遊びに来ればカーチャを休ませてサッサと3人分の料理を作り、仲間とのピクニックに彼女と娘を誘う。
ゴーシャの飾らない優しさを、静かな微笑みと共に受け取るカーチャ、すっかりゴーシャに懐いているアレクサンドラ。この一連のシーンは、結婚もまんざらではないなと思わせるような、この上ない幸福感に満ちている。
だがどんなに親密になっても、カーチャは自分の地位や彼よりずっと高い収入について告白することができない。優秀な職人としてプライドの高いゴーシャは、「妻が自分より上だと収まりがつかん」などと、妙に古風な面を見せるからだ。従来型ではないこの男女関係、そこでの女性の悩みが、早くもこの時代に描かれている。
恋人ゴーシャとほとんど家族同然となりながら、結婚には慎重なカーチャ。ゴーシャがちょっと微妙なことを言うと、チラッと母の反応をうかがうアレクサンドラ。このあたりの機微も、バツイチ子持ち女性の多い現代、散々ドラマで描かれてきたものだろう。
注目の女性管理職として取材を受けた際、久しぶりに出会ったルドルフに、カーチャが「大怪我したお陰で強くなれた」「40歳は人生の始まりよ」とさらりと言ってのけるシーンは胸がすく。
カーチャを演じたヴェーラ・アレントワ(2019/Anadolu Agency/Getty Images)
だがルドルフの出現によってカーチャの真の姿を知ったゴーシャは、ショックを受けて姿を消す。かけがえのない愛を失ったカーチャを助けるべく、駆けつけるリューダとトーシャ夫妻……。
40年前のこの作品に活写されたカーチャたちの欲望や苦悩は、現代の女性にも広く共有されるだろう。女性の社会進出と結婚をめぐって起こる問題の、質の変わらなさ。そのことに改めて驚かされる。
連載:シネマの女は最後に微笑む
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