時代を経ても変わらない? 働く女性の苦悩と欲望

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真面目だが少し脇の甘いところのあるカーチャは、ちゃっかりして積極的なリューダに終始リードされる役回り。嘘をつくのは嫌だと拒否していたものの、結局は偽お嬢様になりすまし、そこで出会ったテレビ局のカメラマン、ルドルフと親しくなる。
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少し笑えるのは、ルドルフが「これからはテレビの時代だ。映画も演劇も文学もなくなる。テレビだけが残る」と力説する場面。最先端メディア産業に従事している男の軽さと自信過剰さが、戯画化されている。

世間知らずのカーチャは、本当のことを言えないままルドルフと付き合って妊娠。その後に番組の取材で工場を訪問したルドルフと対面という、皮肉な展開になる。

必死でルドルフの目から逃げようとしたが無理だとわかり、開き直ってインタビューに答えるシーンで初めて、カーチャという女性の意外な芯の強さや頭の良さが印象付けられる。
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また、流行のファッションにサングラスでさっそうと登場するテレビ局の女性ディレクターといい、取材対象として選ばれた優秀な工場労働者としてのカーチャといい、男女平等が西側より一歩進んでいた当時のソ連社会も垣間見える。

妊娠を告げるもルドルフに冷たい態度で去られたカーチャは、1人で出産。看護婦たちが見守る中での退院時、リューダとトーシャがその場限りの「旦那さん」を用意して祝福するシーンは、彼女たちの思いやりに心が温まると同時に、未婚出産への世間の風当たりの強さも窺える。

リューダもトーシャもそれぞれ結婚したが、1人だけ苦難の道を歩むこととなったカーチャ。睡眠時間を削って資格の勉強に励み、ベッドでひっそり涙するシーンは、昔も今も変わらぬシングルマザーの厳しさを思わせる。

時は過ぎて1970年代後半。工場長となっているカーチャの日常が描かれる。シックなブラウスにパリッとしたツイードのスリーピースを着こなして車で出勤し、部下にテキパキと指示を出す、どこから見てもデキる女性管理職だ。娘のアレクサンドラはすでに年頃で、瀟洒なマンションは生活の余裕を感じさせる。

だがこうした背後に、描かれていないこの20年の彼女の血の滲むような苦労と努力を、見る者は想像せずにはいられない。
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文=大野 左紀子

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